二月十七日
◯本日よりモラトリヤム[#金融緊急措置令。新円発行、旧円預金は封鎖]施行。
 その他関係法令として物価制限令や隠匿物資供出令なども出る。これにて本当に物価が下ってくれればいいが、どうなるのであろうか。
 物価の落着くまでの混乱、事業の縮小、もし支払制限令の金にて食えず、飢餓に陥ったらどうなるのか、例によって財閥、指導階級等の脱法行為如何などと、いろいろ気になることばかり。

 四月十一日
◯預金封鎖、支払制限令、それから財産申告。再び物価価格統制にて物はかくれ、五百円の新円生活にては両面から苦しくなった。そこへ加えて食糧危機がいよいよ目の前にあらわれ、米は十日も配給おくれ。
 六月には大危機が来るという話だが、その二ヶ月も前にこうして危機は到来して居り、政府は無策無為。そして新円は、旧円六百億円を二百億円にくいとめたのも束の間にて、今や二百五十億。毎日四億円ずつ放出されている現状では月末には二百八十億円になろう。大衆をきゅうきゅう追いつめながら、一方には会社や資本家にはどっと新円を下ろさせる銀行の不徳と政府の反民主政策は呆れる外ない。
 どこへ行くか、新日本。そして日本人大衆。
◯昨日は選挙。東京二区は三名連記である。友人作家の石川達三君と、社会党の三軒茶屋の鈴木茂三郎氏と、自由党の東洋経済新報社長の石橋湛山氏とに投票した。
◯晴彦は去る九日首尾よく都立十二中(千歳中)の入学試験に合格した。英と共に心配半歳、漸く芽出度《めでたく》解決して、ぐったりと疲労を覚えた。
◯原稿料は封鎖支払だと大蔵省は決めた。そして各社は封鎖小切手ばかりをよこす。まことに張合のないことである。一方、われら自由職業者へは一ヶ月五百円を封鎖より下ろすことが出来るのと、家族六人につき八百円(今月からは六百円に減少)とを下ろすのと合計千三百円で生活をしなければならぬが、迚《とて》もそれではやりかねる。客が来れば煙草も出さねばならぬし、茶もわかさねばならず、原稿用紙を買い、速達料を払い、炬燵《こたつ》を電気でやるなど、皆、新円にてするしかない。しかも向うから貰うものが悉《ことごと》く封鎖ではかなわない。
 そうなると人情で、どうも書くのに張合が出て来ない。
 そのうちにぼつぼつ新円でくれるところが出て来た。一部を新円で、他を封鎖小切手でくれるところもある。何千円也の封鎖小切手を貰
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