州へかえる予定。
◯多田君岳父旧臘七十三歳で長逝。孝行息子たる彼は感心なものである。
◯「光」の丸尾君来宅。一頁探偵小説と電気常識講座とを頼まれた。
一月十二日
◯旧臘二十九日、鵬原正広(湊山小学校同級生)は梅田線にて乗車のとき、人に押されてホームより電車の下に落ち、電車はそのまま発車し、両脚轢断、頭部裂傷にて憤死した。その旨夫人愛子さんより悲歎の言葉を以て通知あり、驚愕且つ暗然とした。
同じく級友小野君も東松原線にてレールヘ落ち頭に裂傷を負いし由。
二月二日
◯昨日雪が降り出して夕方までに二三寸は積ったが、夜になると熄《や》んだ。
そして今日は陽がさし出でたので、どんどん溶けて行く。うちへ来て下さるお客さま方に全くお気の毒なる道の悪さだ。
◯一月は遂に過ぎた。前半は正月休みで、応接に忙しかったし、後半は原稿で殆んど隙のないほどの忙しさであった。
原稿の依頼も仲々数を加えて、うれしさから苦しさへも移行の形勢である。江戸川さんが宣伝してくれたので、「一頁もの犯人探し」の注文が押しよせた。
今日は「高利翁事件」という三十枚ほどの本格ものを書き終えたが、本格ものは色気に乏しく、取りかかりのところなどは全く書いている方でも苦痛であるが、いよいよ肝腎の要点である推理のところへ来ると、さすがに面白さが湧き立つ。
こういう本格探偵小説――というよりも推理小説といった方がよろしかろう――が、どの程度に読者を吸収するか、今度はまだ分っていないがあまり期待は出来ない。しかし心から面白がってくれるファンの数が少しでも殖えればいいことである。
面白さに乏しくとも、書くのに骨が折れても、当分はこの推理小説一本槍にて進むこととし、いわゆる情痴犯罪のエログロには手を染めまいと思っている。江戸川、小栗、木々などの諸友の考えもここに在るので、私もその仲間の一人として、そういう方針をぶちこわさない決心だ。
◯近く、時事通信社甲府支局版に、連載科学小説「超人来る」を書くことに決りそうである。これは全体の筋を予《あらかじ》めはっきり決めて置いた。
従来のものは、始めと終りと、その狙い位は決めてかかるが、途中のところは自由に残して置いて、書くときの楽しみにして置いたものだ。そういう考えは一応いいのだが、さて書いて行くと、自然、イージーゴーイングになって、筋の発展性に乏しく、テンポに精彩
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