といふわけは、停電で夜仕事が出來ず困り拔いてゐた横溝正史君に、私が發明(少し大きすぎますかね)した電燈裝置を送つてあげて喜ばれたことがあります。ちやうど「本陣殺人事件」の解決篇が、この燈下で書かれたことは、自慢になるでせう、ハツハハハ。
 書道ですか、あれは「お道樂」ではありませんよ。中學三年の頃からはじめたのですが、眞面目に書道の先生になるつもりでした。その動機も充分あるのです。私の書く探偵小説中の殺人動機よりもたしかな位です。
 中學生の私は、ある日、お爺さんに呼びよせられましてね、お前の祖先は書道の神とされてゐる有名な菅原道眞公だから、その子孫たるお前が字のへたなわけがないと、妙な論理から押しつけられて、毎日お手本と睨めつこをすることになつたわけです。
 海ならばたたへる水の底までも清き心は月ぞ照さん……といふやうな道眞公の和歌まで暗記したものです。
 その後、日下部先生の門に入つて「※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]腕流」を學び、どうやら人樣にもお見せできるやうに上達しました。
 書道は、何といつても中國が本場ですよ。小さな子供まで日本人の大人以上に達筆なのには驚かされ
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