そのときだった。のぼせあがった頭が、すうっと涼しくなった。憤りが、急にどこかへ行ってしまったような気がする。
と、ぼッと目の前がうす紫色に見えだした。よく見ると、それは透明碗の壁《かべ》が、どうしたわけかうす紫色に着色したのである。なおよく見ると、それは縞《しま》になっている。そして縞がこまかくふるえている。――僕はますます爽快な気持ちになっていった。
が、変なことが起こった。僕の来ている服が、いやにだぶだぶして来た。そして服が、僕のからだから逃げようとするではないか。
(へんてこだぞ、これは……)
誰か、見えない人間が僕のまわりにいて、僕の服を脱がそうとしてひっぱっているようでもある。まさか、そんな人間があろうとも思われないけれど。
服が脱がされては困る。僕は忙しく、一生けんめい自分の服のあっちを引張り、こっちを引張りして、目に見えない相手と力くらべをした。
ああ、しかし、服は僕の力にうち勝ち、からだから、手から足から、逃げだした。僕がやっきになって一人|角力《ずもう》をとっているうちにとうとう僕は赤裸《はだか》になってしまった。
「これが二十年前の彼の姿である。非常に
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