ると同じような錯覚《さっかく》をおこすようになっているのですよ」
 と、説明してくれた。
 僕は感心した。この進歩した海底都市では、人間の気分ということを大切に扱っている。気分を害するようなことは極力《きょくりょく》さけ、そしてすこしでも人間の気分をよくして生活を楽しませるように都市|施設《しせつ》や居住施設が工夫せられている。だからこの都市の人々は、誰もみなよく肥《ふと》って居り、血色もよく、元気に見える。声だって、みんなあたりへひびくようなでかい声を出す。どこからか息がすうすう抜けているような、あの焼跡で聞く虫細い声なんか、いくら探してもない。
 考古学教室は、五区の左側にある赤い煉瓦《れんが》づくりの古風な二階建であって、まわりには銀杏樹《いちょう》とポプラとがとりまいていた。僕はこの見なれた風景に、うっかりここが海底都市であるということを忘れるところだった。
「わざわざ、あのように赤煉瓦《あかれんが》なんかを使って建てたんです。なにしろ考古学の研究をするんですものねえ」
 とタクマ少年はあいかわらず忠実に案内役をつとめる。
「銀杏樹《いちょう》やポプラを植えこむには、ずいぶん困
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