「辛抱はしますよ。僕、これでなかなか辛抱づよいのですからね」
「でも、私の夫のカビ博士は、学問に熱心のあまり、時には気が変になるのですよ」
「え、気が変に? いや、それでもいいですよ、僕がこの国に停《とどま》っていられるなら……」
 前後も考えず、僕は決めてしまった。


   考古学教室


 このすばらしい海底都市に、もっと永く居たいばかりに、僕はいろいろと苦労をしなければならなかった。
 僕の欲が探すぎると責《せ》めてはいけない。誰だって僕みたいな境遇《きょうぐう》におかれるなら、きっと僕と同じ考えをおこすにちがいない。なんにしても二十年後のこのすばらしい海底都市の文化発達のありさまを一目見た者は、もとの焼跡《やけあと》だらけの、食料不足の、衣料ぼろぼろの、悪漢《あっかん》だらけの一九四八年の東京なんかに戻りたいと誰も思わないだろう。
 そのように、元の東京へ戻りたくないのであるが、僕を時間器械にのせてここへ送ってくれた、友人辻ヶ谷君は、いつその器械をまわして、僕をもとの焼跡へよび戻すかしれないのだ。彼との約束は僕がたった一時間だけ、二十年後の世界を散歩することだった。こうと知っ
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