う)
 僕は不思議で仕方がなかった。
 しかし今は、その不思議を追っているひまがない。なぜなら、僕の前にはカスミ女史が待っている。
「どうぞ、この蟇口の中から、料理代をお取り下さい」
 料理代はいくらか知らない。たとえ料理代は何万円だといわれても、この金貨は一体いくらの金貨か分らないから、蟇口の中からその何枚を出していいか分らない。だから蟇口ごと女史の前にさし出したのである。
「まあ、たくさんお金を持っていらっしゃるのね。……料理代は、その金貨一枚をいただいて、おつりをさし上げますわ」
「そうですか」
 女史は蟇口の中から金貨を一枚つまみあげ、戸棚のところへ持っていって引出《ひきだし》をあけて、何かがちゃがちゃやっていたが、やがて何枚かの銀貨を持って戻って来た。
「はい、おつりです」
「こんなに沢山のおつりですか」
 僕はおどろいた。二十年後の世界は物価《ぶっか》がたいへんやすいようである。
 女史が元の席へ戻ったので、僕はさっきの話のつづきをしてくれるよう頼《たの》んだ。
「もうその話はよしましょう。あなたに悪いことを教えては、よくありませんから」
 女史はそのことについては、もう口
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