をたべると、いかなる他の料理をたべるよりもずっとおいしく感ずるのです。一挙両得《いっきょりょうとく》とは正《まさ》にこのことです。健康の失調はなおるし、口にもすてきにおいしいし、両得ではありませんか」
 タクマ少年のいうことは、なるほど道理にかなっている。誰だって、薬をのむよりは、おいしい料理をたべることを好むだろう。魚がたべたくて仕様がないときには魚肉が持っている蛋白質《たんぱくしつ》やビタミンのAやDが身体に必要な状態にあるわけだし、昆布《こんぶ》がたべたくて仕様がないときには、身体に沃度分《ヨードぶん》が必要な場合なのであろう。
「しかしねえ、タクマ君。僕らが今どのような健康状態にあるかを知らないくせに、このとおり特別料理を僕らにあてがうのは、でたら目すぎるではないか」
「いや、そんなことはありません。私たちはこの食堂に入る前に、ちゃんと健康状態を調べられたんだから、まちがった料理をたべさせられることはありませんです」
「あんなことをいってら、いつ、僕らの健康状態が調べられるかね。そんな診察なんかちっとも受けやしなかったじゃないか」
 僕はタクマ少年のでたら目をやっつけた。
「い
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