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もういけない。爪先で立っていても、水が鼻孔《びこう》に入って来る。仕方がないから僕はもう立っていることを諦《あきら》めて平泳ぎをはじめた。
水は塩っからかった。
(なるほど、海水だな)
平泳ぎから立泳ぎになったり、また平泳ぎにかえったり、僕は二十分間ぐらい泳いだ。相手は僕を泳ぎ疲れさせて殺すつもりかもしれない。しかし僕は、水に浮いていることなら十八時間がんばった記録をもっている。だからちっとも恐れなかった。
ただ一刻も早く、この憎むべき陰謀の主を見つけだして、きめつけてやりたい。
相手は、どこからか僕の様子を監視しているのに違いない。そう思ったから、僕はますます落着きはらっているところを[#「ところを」は底本では「ところ」]見せるために、泳ぎながら佐渡《さど》おけさを歌ったり、草津節《くさつぶし》を呻《うな》ったりした。
「だめね、これでは。水の中へ潜らなくちゃ実験になりゃしないわ」
壁の向うと思うが、かすかではあるが、そんな風にしゃべる女の声を聞いた。
あれッと、僕が緊張《きんちょう》する折《おり》ふし、水槽の横手の方から、ぎりぎりと硝子《ガラス》の板が出て来て、僕
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