をしきりに調べている。
 すると、タクマ少年が叫んだ。
「あ、金だ。黄金だ。ふうん、やっぱりそうだったんだよ、海溝には黄金があるという噂《うわさ》があったんだが、本当だった」
「えッ、これが金か? すごいなあ」
 僕は、土の流れの中からぴかぴか光るやつを、手に拾いあげて思わず大きな声を出した。


   悲願《ひがん》の黄金《おうごん》


 僕はタクマ少年の案内で、海溝の排水地区《はいすいちく》から、またもや動く道路に乗って下町へ向かった。
 僕は、動く道路の上にうずくまり、複雑な思いに渋い顔をしていた。
 金だった。黄金が海溝の底から掘り出されていたのだ。あんなにたくさんの量の黄金を見たのは始めてだ。すばらしい富だ。あれを使えば、いろいろなものが買えるだろう。僕は非常に興奮《こうふん》して来た。
 なんとかして、あの金を持って帰りたいものである。二十年前の世界――すなわち、現に僕が一人の生徒として住んでいる焼跡だらけの世界へ?
 それはむずかしいことだ。
 考えれば考えるほど、むずかしいことだ。二十年も前へ物を移すということは、二十|粁《キロ》後へ物をはこぶこととは違って、甚《はなは》だ困難なことだ。いや、絶対に出来ないことのように思われる。
(しかし、何とか出来ないものかなあ。あれだけの黄金が、いま日本にあれば、復興《ふっこう》のためや、食料輸入のために、ずいぶん役に立つんだがなあ)
 いくらはげしい希望であっても出来ないことは出来ないんだ。あきらめるより外《ほか》ないのか。
(いや、待てよ。時間器械というものが、すでに発明されていて百年昔へ行くことも出来るし、僕がいまやっているように二十年先の未来へ行くことも出来るんだ。そういう器械が出来ている以上、何か工夫をすれば、あの黄金を二十年前の焼跡だらけの東京へ持って帰ることが出来るのではないか。――そうだ、僕はこのことを、これから真剣になって研究しよう)
 僕がこんな無謀《むぼう》に近いことを思いたったのを、諸君はあざ笑わないことと思う。ぺこぺこのお腹を抱《かか》え、あの焼跡に立ってみれば、誰だって僕と同感になるだろう。
 この悲願を、僕は二十年後の世界の、動く道路の上で思いたったのである。これから僕は、この実現に、あらゆる知恵をしぼり、あらゆる努力を払い、一日も早く目的を達したいと思う。
「あっ、待てよ。一日なんて、そんな永い時間を待っていられないんだ。僕を時間器械へ入れてくれたあの友達辻ヶ谷君は、二時間か三時間したら、僕を元の世の中へ戻してくれると約束した。そんなら、今より僕は元の世の中へ呼び戻されるだろう。それではたいへん困る。どうしたらいいだろうか、黄金を持って帰るよりも、この方のことが重大であり、大至急《だいしきゅう》よい手をうたねばならない!)
 どうしたらいいだろうか。
「来ましたよ。下町で一番にぎやかなニコニコ街です。さあ、下りる支度《したく》をして下さい」
 タクマ少年が僕に話しかけたので、僕はびっくりして吾れにかえった。
「ああ危ない。もっとゆっくり道路を乗り移ればいいんです。おちついて下さい」
 僕は、あやうく身体の平衡《へいこう》を失ってすってんころりんとするところを、タクマ少年が敏捷《びんしょう》に腕をつかんで引揚げてくれたので、醜態《しゅうたい》をさらさないですんだ。
 無事に、動く道路から下りた。
 すてきなにぎやかさだ。音楽が交錯《こうさく》して、聞こえて来る。五彩《ごさい》の照明の美しさ、それは建物を照らしているだけではなく、大空にも照りはえて虹《にじ》の国へいったようだ。
 いや、大空はこの海底都市からは見えない筈《はず》。しかしここから空を仰ぐと、高い夜空が頭上にひろがっているとしか思われないのであった。たくみな照明法を用いているのであろうか、じつにすばらしい。
 タクマ少年は、僕が人ごみの中にはぐれないようにと、手をひいて歩いてくれる。
 映画館もある。劇場もある。美術館があるかと思うと、サーカスがある。奇術魔術団大興行《きじゅつまじゅつだんだいこうぎょう》などと幟《のぼり》のたっているところもある。
「どこへ入りましょうか」
 タクマ少年に聞いた。
 僕は正直なところ、例の問題をはやく解決したいことに、呑気《のんき》に見物などしていられないとおもった。それよりは、さきほどから方々へ行ったので、かなりお腹がすいた。何かたべたい。このことを少年に話すと、
「あ、そんなら、きっとお客さんの口にあうおいしい料理を作る家へご案内しましょう。それはヒマワリ軒《けん》といって、僕の姉の家なんです」といった。
「それはいいね。ぜひそこへ連れていってくれたまえ。そして僕は君の姉さんという人に会いたいと思う」
「はい、ヒマワリ軒はすぐこの先です」
 僕
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