にあつくなった。
「実は………実は……」
 僕は、先生の前に出たいたずら小僧《こぞう》の様《よう》に、どもった。
 カスミ女史は、こっちをみて、にやにや笑っている。女史の方からみれば、僕がこんなに困っているのが面白くてならないのだろうがこっちは全身|汗《あせ》だくである。
「実《じつ》は、僕は二十年前の世界から時間器械に乗って、当地へやってきた本間という生徒なんです。申訳《もうしわけ》ありません」
「申訳ないことはありませんけれど、よくまあそんな冒険をなすったものねえ」
「はっ。ちょっと好奇心にかられたものですから……」
 僕は頭をかいた。
「僕は見つかると、ひどい目にあうでしょうか」
「それはもちろんですわ」
 女史は急にこわい顔になって肩をそびやかした。
「この国では時間器械による旅行者を厳重《げんじゅう》に取締っているのです。というわけは、あまりにそういう旅行者がこの国へ入りこんで、勝手なことばかりをして、荒しまわったものですから、それで厳禁《げんきん》ということになってしまったのよ」
「ははあ。彼等は一体どんなことをしたんですか」
「いろいろ悪いことをしましたわ、料理店に入ってさんざんごちそうをたべたあげく、金を払わないでたちまち姿を消してしまったり……」
「ああ、ちょっと待って下さい」
 僕は、すっかり忘れていたことを思いだして、あわてて声をはりあげた。
「そういえば、僕はまださっきの食事のお金を払ってありませんでしたね。今お払い致します」
 僕は、ポケットをさぐってみた。実は、ポケットにお金の入っている自信はなかった。こっちへ来るについて、お金の用意なんかしなかったので、恐《おそ》らくどのポケットにもお金なんか入っていないことであろう。大失策《だいしっさく》だ。僕はいよいよこの国の罪人《ざいにん》になるほか道がないのだ。困ったことになった――おや、ポケットの中に、何かあるぞ蟇口《がまぐち》みたいなものが……。
 僕は、おそるおそる、それをポケットから出してみた。青い皮で作ってある大きな蟇口。
(あっ、蟇口だ! 相当重いぞ!)
 僕は夢に夢見る心地で、蟇口をあけた。
(ほほッ、すばらしい! 金貨が入っている!)
 本当だ。大きな蟇口の中には、ぴかぴか光る金貨が百枚近くも入っていたではないか。
(どうしてこんなすごい大金が、僕のポケットの中に入っていたのだろ
前へ 次へ
全92ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング