るぐる廻って長く続いている。廊下の壁紙の模様は、蔦《つた》の葉や紅葉《もみじ》や松などに変っていくが、しかし至極《しごく》単調である。照明も、あまり明るくない間接照明だ。ゆるやかな音が聞えてくることは、前の円形の部屋と同じだ。
「ずいぶん歩かせるじゃないか」
僕はたまらなくなって、タクマ少年に耳うちをした。
「食前には正常な歩調で姿勢を正しく歩くとたいへん消化力が強くなるから、こうして歩くのです。この廊下は、迷路に似たもので、家の中をぐるぐる廻るようになっていますが、しかし一本道ですから、決して迷うようなことはありません。それにこの廊下を通る間に、私たちに対して或る重要な測定が行われているのです」
「重要な測定!」
「そうです。それがどんな重要な測定であるかは、やがて食卓につけば分ります。それまでこの話はお預りにしておきましょう」
僕は異常な興味をかきたてられたが、しばらく辛抱することにした。そしてまた歩き続けた。
そのうちに僕は、当然気がかりなことを思い出した。
それは外《ほか》でもない。僕がこの料理店に支払うだけの金を持っているかどうか、蟇口《がまぐち》の中味のことが心配になったのだ。
「君、君。ちょっと聞くがね、この店の料理の値段はいくらだろうか。一人前が何円かね」
「料理の値段ですか。それは一人前五点にきまっています」
「五テン? 五テンて何だね。まさか五円の間違いではなかろうが……」
「五点です、間違いなしです」
僕はタクマ少年の言葉を解しかねたが、ポケットに手を入れて財布《さいふ》をさがした。財布らしいものはどこにもなかった。これはいけない、金がなくては料理どころではない。
「あのうタクマ君。はなはだ僕がうっかりしていたが、僕はお金を持って来るのを忘れたんだがねえ。だから食事は、やめにしよう」
「ああ、支払いのことなら心配いらないです。あとで政府から支配命令書が来たとき払えばいいのですから」
「ああ、そうかね。それで安心……」
僕は、腹をさすった。
さて僕たちは二百メートルも長廊下を歩いた末に、やっと大食堂に出た。そして案内されるままに一つの食卓についたが、その食の豪華さに目を奪われた。
「お客さん、料理が来ましたよ」
タクマ少年の声に、僕は食卓へ目を移したが、そのときは僕は意外さに目をみはらねばならなかった。
見えざる診察者《
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