んて、そんな永い時間を待っていられないんだ。僕を時間器械へ入れてくれたあの友達辻ヶ谷君は、二時間か三時間したら、僕を元の世の中へ戻してくれると約束した。そんなら、今より僕は元の世の中へ呼び戻されるだろう。それではたいへん困る。どうしたらいいだろうか、黄金を持って帰るよりも、この方のことが重大であり、大至急《だいしきゅう》よい手をうたねばならない!)
 どうしたらいいだろうか。
「来ましたよ。下町で一番にぎやかなニコニコ街です。さあ、下りる支度《したく》をして下さい」
 タクマ少年が僕に話しかけたので、僕はびっくりして吾れにかえった。
「ああ危ない。もっとゆっくり道路を乗り移ればいいんです。おちついて下さい」
 僕は、あやうく身体の平衡《へいこう》を失ってすってんころりんとするところを、タクマ少年が敏捷《びんしょう》に腕をつかんで引揚げてくれたので、醜態《しゅうたい》をさらさないですんだ。
 無事に、動く道路から下りた。
 すてきなにぎやかさだ。音楽が交錯《こうさく》して、聞こえて来る。五彩《ごさい》の照明の美しさ、それは建物を照らしているだけではなく、大空にも照りはえて虹《にじ》の国へいったようだ。
 いや、大空はこの海底都市からは見えない筈《はず》。しかしここから空を仰ぐと、高い夜空が頭上にひろがっているとしか思われないのであった。たくみな照明法を用いているのであろうか、じつにすばらしい。
 タクマ少年は、僕が人ごみの中にはぐれないようにと、手をひいて歩いてくれる。
 映画館もある。劇場もある。美術館があるかと思うと、サーカスがある。奇術魔術団大興行《きじゅつまじゅつだんだいこうぎょう》などと幟《のぼり》のたっているところもある。
「どこへ入りましょうか」
 タクマ少年に聞いた。
 僕は正直なところ、例の問題をはやく解決したいことに、呑気《のんき》に見物などしていられないとおもった。それよりは、さきほどから方々へ行ったので、かなりお腹がすいた。何かたべたい。このことを少年に話すと、
「あ、そんなら、きっとお客さんの口にあうおいしい料理を作る家へご案内しましょう。それはヒマワリ軒《けん》といって、僕の姉の家なんです」といった。
「それはいいね。ぜひそこへ連れていってくれたまえ。そして僕は君の姉さんという人に会いたいと思う」
「はい、ヒマワリ軒はすぐこの先です」
 僕
前へ 次へ
全92ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング