へ戻って来ても、僕がもしいいというまでは、君は僕を二十年後の世界へ何回でも送りつけるんだ。そうしないとわが人類は一大危機にさらされることになるんだ。いいかね、何回でも僕を、二十年後の世界へ追いかえすのだ」
 僕は泣かんばかりにして辻ヶ谷君に頼んだ。
 なにしろ僕はトロ族の暴民のため殺されたにちがいない。死ぬと共に、僕はこの世の中へ戻って来て、タイム・マシーンの中に自分の身体を発見したのである。僕が予想したとおりだった。
 然《しか》らば僕は、かねて計画したところに従って頑張るばかりだ。これから何べんでもトロ族の暴民の前に姿を現わして、彼等をおどろかせ、そして彼らをどこまでも説得するんだ。
「よォし、そんなに君がいうんなら、また二十年後の世界へ送ってやるが、そのかわりどんな事が起っても、僕は知らないよ」
 辻ヶ谷君は、そういって扉に手をかけた。
「ありがとう、ぜひ頼む。――いいね、僕がもうよろしいというまでは、僕が何べんここへ戻って来ても、二十年後の世界へ追いかえすのだよ」
「よし分かった。君の希望するとおりに計《はか》らってあげる」
 そういうと辻ヶ谷君は、扉をぱたんと閉めた。
 それから例のとおりタイム・マシーンは働きはじめた。あたりがぼんやりとなる。そしてしばらくすると、別の音響が聞こえて来た。
「ひッひッひッひッ。見やがれ。とうとう八つ裂にしてやった」
「血祭《ちまつり》第一号だ。ヤマ族め、思い知ったか。くやしかったらもう一度生きてみろ」
 僕は今だと思った。僕はむくむくと起きあがった。そして大音声《だいおんじょう》をはりあげた。
「あわててはいけない。僕は死んでいないのだ。オンドリ、僕が見えるか」
 僕は傍《そば》にいたオンドリの肩を叩いた。そのときのオンドリのおどろいた顔!


   不死身《ふじみ》


「僕はまだ死んで居らんぞ。よく見たまえ」
 僕はオンドリの腕をとらえて、つよくゆすぶった。
「おやッ。まだ死ななかったか」
 オンドリは、僕がまだ生きて居るのを、ようやく認識したようだ。
「この野郎はまだ生きている。これではまだ血祭《ちまつり》にならないぞ」
 オンドリは前に集まっているトロ族たちを煽動《せんどう》した。さっきまでは彼は平和愛好者のような顔をしていたのに、今はもうがらりと変って煽動者をつとめている。なんという卑《いや》しい根性《こんじょう
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