から考えて、彼らを暴民と呼んでさしつかえないだろう、たとえ彼らが憤激《ふんげき》すべき理由を持っているにしろ……。
「君は、僕に何を求めるのかね」
僕はたまりかねて、傍《そば》にいて僕の手首をしっかり握っているオンドリにいった。
「あのとおり同胞は激昂《げきこう》しているんだ。尋常《じんじょう》のことではおさまらないだろう。同胞たちは君の姿を見て、一層|刺戟《しげき》されたのだ。同胞たちは、日頃の忍耐を破って、ヤマ族の海底都市襲撃を叫んでいる。あれ、あの通り……」
オンドリにいわれなくても、僕にも彼らの好戦的な叫びは、さっきから耳に入っている。困ったことになったものだ。
「海底都市の人たちは、自分たちの進めている海底工事が、このように君たちトロ族に惨害を与えていることを知らないのだ。知ってりゃ即座《そくざ》にやめるにちがいない。だから君たちは海底都市を襲撃する前に、先ず事情を海底都市へ申し入れるべきだ。及ばずながら僕はその使者の一人となってもいいと思う」
「遅い。もう遅い。われわれの同胞はあの通りの大激昂《だいげきこう》だ。君は……君は気の毒だが、われわれの門出《かどで》の血祭だ。ひッひッひッひッ」
オンドリは歯をむきだして、僕の腕の骨も折れよと掴《つか》んで振った。
これまで穏健《おんけん》の人と見えていたオンドリまでが、もはや気が変になってしまったようになったのだ。万事休《ばんじきゅう》すである。
僕の心は千々《ちぢ》に乱れた。愛する人たちの住んでいる海底都市を、トロ族の暴行より如何にして護ったらいいだろうか。また大激昂《だいげきこう》のトロ族を何とか一度で鎮《しず》まらせる方法はないものであろうかと。
……と、僕は一策を思いついた。
タイム・マシーン
最後の竿頭《かんとう》に立って思いついた僕の一策というのは、どんなことであったろうか。
それはすこぶる大胆《だいたん》な、そして乱暴な方法であった。だがそれが今残されたる只一つの道であるのだ。トロ族の群衆は、今僕の身体を八《や》つ裂《さ》きにしようと思っている。それに続いて大挙《たいきょ》、海底都市に侵入しようとしている。そしてトロ族の惨虐性《ざんぎゃくせい》と復讐心《ふくしゅうしん》とが、言語に絶する暴行を演ずるであろうことは明白だ。この際だ。どんなに[#「どんなに」は底本では「ど
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