すぐお替《かわ》りをはめて元のようになるわけだ。もっともこの春山さんは、赤インキなども用意して実感を出して下さったようだが、とにかくお前がピストルと別れてくれたことはおれも嬉しい。今の時勢に、ピストルを振廻して人命を傷つけるなんてことは、野蛮にして下劣、最も罪が重いんだからね」
「兄貴の智慧にしちゃ上出来だ」
「いや、この芝居はおれが書いたんじゃなくて、ここにお出でなさる名探偵袋猫々先生にお智慧拝借の結果だよ。猫々先生によくお礼を申上げなよ。……しかしおれはお前のお蔭で、これまで下げたことのない頭を、宿敵《しゅくてき》猫々野郎の前に下げたんだぜ。ざまはねえや」
 烏啼はそういって、探偵袋猫々に向って合掌《がっしょう》した。彼の両眼は義弟の更生《こうせい》を謝《しゃ》する涙にうるんでいた。



底本:「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房
   1990(平成2)年8月15日第1版第1刷発行
初出:「実話と読物」
   1947(昭和22)年5月号
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2001年12月29日公開
2006年8月21日修正
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