秘仏が並んだ。烏啼は、やはりちょっぴりと貫一を賞め、そして「何か変ったことはなかったか」と訊《き》いた。貫一は異状なしと嘘をついた。
 その次の第三夜は、葛飾へ出掛けた。
 二度あることは三度あるというが、ふしぎにも同じことがあった。縞馬みたいな刑事が煙草の火を借りに来て、この辺は物騒だから要慎《ようじん》するように注意して去った。
「どうも変なことがあればあるものだ。毎晩同じような服装をした同じような刑事が現われて来やがる。……しかしまさか同じ人間じゃあるまいな。前の夜の刑事なら、あんなにぴんぴんしていられる訳がない。それに同じ刑事なら、煙草の火を借りるにしても、もっと何か前夜と連絡のあるような文句をいう筈だが、実際はそんなことはなかったんだからなあ。だから、やっぱり別の人間に違いない」
 その夜仕事が終って寺を抜け出て通りへ出た途端《とたん》に、またもや約束事のように、刑事がとび出して仏像を背負った貫一を後から呼び留めた。
「これでも喰《くら》え」
 貫一の放った一弾は、刑事の右の脚を、膝の上のあたりで切断をしてしまった。刑事は、すってんころりと転んだが、気丈夫な奴と見えて匐《は》いながら、千切れた脚をつかんで頭の上にさしあげたと思うと、ぱったり倒れて動かなくなった。――貫一は、ざまを見やがれと捨台辞を残して、その場を退散した。
 烏啼の館に、尊い仏像は三体も集った。
「異ったことはなしか、今夜はいやに顔色が良くないが……」
 と烏啼が訊いたが、貫一は例によって異状なしと頑張った。
 第四夜は世田谷《せたがや》方面だった。
 さすがの貫一も、その夜は少々気味が悪くて、足がいつものように楽に進みはしなかった。
「旦那。すみません、煙草の火を貸して下さい。すみません」
 又もや同じような服装の刑事に違いない男が寄って来た。
「君は毎晩おれのところへ火を借りに来るじゃないか」
 と、貫一はもうたまらなくなって、前後の見境もなく、そんな言葉を吐いてしまった。
「えっ、何ですって、毎晩旦那の前に私が現われますって。へッ、冗談じゃありませんよ、お目に懸《かか》るのは今夜が始めてで……」
 刑事は、そういって否定した。貫一の予期したとおりであったので、彼はほっとした。かの刑事が立去る後姿を、貫一は注意力を傾けて見ていたが、それは満足すべきものであった。なぜなれば、もし彼の刑事
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