とう》だった。
しばらくウィンドーの裸ダンスの写真を、涎《よだれ》を垂《た》らさんばかりの顔つきで眺めて――
「さア、お前はどこに決めるんだ」
「俺は断然、この丸花《まるはな》一座を観る」
「じゃ俺もそう決めた。……いいよいいよ、今夜は俺が払うから、委《まか》しとけ」
「イヤ駄目だい。今夜は俺に払わせろ」
「いいんだよオ」
「いけないよォ」
頗《すこぶ》る手際《てぎわ》よく、だらしなくグニャグニャと縺《もつ》れ合《あ》いながら弦吾と同志帆立はプログラム片手にひッつかんだ儘《まま》、嬉しそうに入っていった――だが一皮下は、棒を呑《の》んでいるような気持だった。
明るい舞台では、コメディ「砂丘の家」が始まっていた。
流石《さすが》にカブリツキは遠慮《えんりょ》して、中央の席に坐る。
舞台は花のように賑《にぎや》かだった。
だが、それに引きかえ、観客席のQX30[#「30」は縦中横]は、面《おもて》こそ作り笑いに紛《まぎ》らせているが、胸の裡《うち》は鉛《なまり》を呑んだように憂欝《ゆううつ》に閉《と》ざされていた。そのわけは彼の手に握られたプログラムにあった。
この複雑きわま
前へ
次へ
全28ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング