左へ曲る。気がついてハッとすると、不自然にギクリと首を右へ曲げる。――これだ、これだ。
あの、首を振り過ぎる女が、求める副司令なのだッ。しめた!
7
(しめた)と喜んではみたが本当に喜ぶにはまだ早かった。何故なら彼女は他の九人と同じ「木製《もくせい》の兵隊さん」だった。どれが彼女の名前やら判らない。
(弱った。やはり呪《のろ》いのプログラムだッ)
弦吾は、改めてプログラムを呪った。
そうこうする裡に同志百七十一名の生命は、刻々《こくこく》に縮《ちぢま》ってゆく。そうだ、こうしては居られない。
(例の試みをやってみるか)
彼は暫《しばら》くプログラムの表面を見ていたが、今の「木製の人形」に出ている十人のレビュー・ガールの名前を胸のうちに諳《そら》んじた。
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六条《ろくじょう》 千春《ちはる》 平河《ひらかわ》みね子 辰巳《たつみ》 鈴子《すずこ》 歌島《かしま》 定子《さだこ》 柳《やなぎ》 ちどり 小林《こばやし》 翠子《すいこ》 香川《かがわ》 桃代《ももよ》 三条《さんじょう》 健子《たけこ》 海原《かいばら》真帆子《まほこ》 紅《くれない》 黄世子《きよこ》
[#ここで字下げ終わり]
この中に彼女の名前があるのだ。この出演人員を※[#丸1、1−13−1]としよう。
ところで一つ前の「砂丘の家」には彼女は出なかった。しかしこれと※[#丸1、1−13−1]との出演人員を較《くら》べると、両方に出演している女が四人もある。「近所の娘」をつとめる香川桃代、平河みね子、小林翠子、六条千春の四人だ。するとこの四つの名前には彼女の名前はないのだから、※[#丸1、1−13−1]の十人から先ず消し去ってもよい。すると残りは六人となる。
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辰巳 鈴子 歌島 定子 柳 ちどり 三条 健子 海原真帆子 紅 黄世子
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だけが残る。この中の一人が、あの女なのだ。
QX30[#「30」は縦中横]は、今や神を念《ねん》じた。この調子で、敵の副司令の義眼女の名前を知らしめ給え。
「木製の人形」が引込むと、次はプログラムに随《したが》って、「シャンソン 朝顔の歌」それから「ダンス 美《うる》わしの宵《よい》」いずれも彼女は出ない。「シャンソン 遥かなるサンタ・ルチア」も出ない。次の「ダンス・オー・ヤヤ」にも出ない。そして次の「ダンス・カンツリー」に移った。
これにも彼女は出なかったが、大いに注意すべき事がある。それは例の残った六人の中の三人、すなわち辰巳鈴子、三条健子、歌島定子が出演していることがプログラムの上から読まれた。これは何を意味するかというと、彼女はその三つの名前の中には無いということ――果然《かぜん》、敵の副司令の名前は、残りの三つの名前の中にあるという結論になった。ああ、その三つの名前!
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海原真帆子《かいばらまほこ》 柳《やなぎ》 ちどり 紅《くれない》 黄世子《きよこ》
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利鎌《とがま》を振りまわしている死の神はわれ等の同志百七十一人の許《もと》を離れて、いまや刻々《こくこく》敵の副司令へ迫《せま》りつつあるのだ。
さて残る三人は、どこでそれぞれ判るであろうか。
QX30[#「30」は縦中横]は、とどろく心臓を押えてプログラムの先の方を調べて見た。
判る、判る!
次の演出は、初めに返って、第一ナンセンス・レビュー「弥次喜多《やじきた》」二幕十二場だ。辿《たど》ってゆくと、この中の第二景「大阪|道頓堀《どうとんぼり》」のところで例の三人のうち、紅黄世子[#「紅黄世子」に丸傍点]だけが他の二人に別れて出演するのだ。
それから、それから……。
残る海原真帆子と柳ちどりとは、第四景の「琵琶湖畔《びわこはん》」に茶店娘《ちゃみせむすめ》お金とお銀で一緒に出る。さても焦《あせ》らせることではある。
ところで第五景の「山賊邸《さんぞくてい》展望台」では唐子《からこ》の娘として、柳ちどり[#「柳ちどり」に丸傍点][#「柳ちどり」は底本では「紅黄世子」]が出る。
第六景の「奈良井遊廓《ならいゆうかく》」では残りの海原真帆子[#「海原真帆子」に丸傍点]が出る。これで全部判ったことになる。
だが、此《こ》の第六景「奈良井遊廓」まで待つ必要はない。既に一つ前の第五景「山賊邸《さんぞくてい》展望台」で、残る二人のうち柳ちどり[#「柳ちどり」は底本では「紅黄世子」]が判るのだから、あとの一人は第六景を見て確《たしか》めずとも判る筈《はず》だった。――敵の副司令の断頭台《だんとうだい》はこの第五景で、切って放たれるのだ。
QX30[#「30」は縦中横]笹枝弦吾は、歯を
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