彼は恐《おそ》る恐《おそ》る席を立って、表の戸を開いてみた。
「ああよかった。いらっしったのネ」
「ど、誰方?――」
 杜にはそれが何人であるかは大凡《おおよそ》気がつかぬでもなかったが、ついそう聞きかえさずにはいられなかった。激しい興奮が、いまや彼の全身を駆けめぐり始めたからだ。
「あたしよォ。――ミチミ」
 ああミチミだ。やっぱりミチミだった。ミチミが来た、ミチミが帰って来たのだ。震災の日に生き別れ、それから一度焼け落ちた吾妻橋の上で睨《にら》み合って別れ、それからずっとこの方《かた》彼女を見なかった。とうとうミチミは彼の前に現れた。昔に変らぬ純な、そして朗かなミチミであるように見えた。
「おおミチミ。――さあお上り」
 その年はいつまでも真夏がつづいているように暑かった。ミチミは何処で求めたものか彼女らしい気品の高い単衣《ひとえ》を着、そしてその上に青い帯を締めていた。
「よく分ったネ。こんな所にいるということが――」
「ええ。――でも、新聞に貴郎《あなた》のことが出ていたわ。ほんとに今度は、お気の毒な目にお遭いになったのネ」
「いや、やっぱり僕の行いがよくなかったんだ。魔が
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