ると、杜のやり方に不審をいだかれるは必定であり、それから更に面白くない嫌疑を募《つの》らせてはたまらないと思ったので、血痕のことだけは云わないことにした。それは検察官のために、一つの貴重なる断罪資料を失うことになるけれども、ここに至っては、もうどうにも仕様がなかった。
「――前日に来たこの五十男は何という名前だって」
と検事は鉛筆をなめなめ杜に聞いた。
「たしか麹町の殿様半次とか云っていました」
「ええっ、殿様半次だと、――」
と警官連は半次の仕業と知ると、云いあわせたように仰天《ぎょうてん》した。
「――つまりこの女の情夫である麹町の殿様半次が一番怪しいということになる。半次ならやりかねないだろう」
重大なるお尋ね者である半次は、天には勝てず、旧《ふる》い友達のバラックに潜伏しているところを捕《とら》えられた。
それから取調べが始まった。
半次の前には、例の口付《くちつき》煙草入れと、土間から拾い上げた吸殻四個とが並べられた。
彼のアリバイは、彼の当初の声明を裏切って、遂に立証すべき何ものも見つからず、遂に彼は恐れ入ってしまった。
事件は次のように審理された。
すなわ
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