んだ。その痛みが、彼女の身体に、奇妙な或る満足感に似たものを与えた。お千は引摺《ひきず》られるようにして、でも嬉しくもなさそうに眼を細くして、杜の云いなり放題にドンドン引張られていった。杜は柳島までも行かなかった。丁度《ちょうど》吾妻橋と被服廠跡との丁度中間ほどにある原庭町《はらにわちょう》の広い焼け野原のところ――といっても町名は明かではなく、どこからどこまでも区切のない茫漠《ぼうばく》たる一面の焼け武蔵野ヶ原であったけれど――この原庭と思われる辺に来て、杜は不図《ふと》足を停めた。
「この辺がよかろう」
 杜は誰に云うともなくそう云った。
 側《かたわ》らには小さな溝が、流れもしないドロンとした水を湛《たた》えている。それから太い大樹の無惨な焼け残りが、まるで陸に上った海坊主のような恰好をして突立っている。なんだか気味のわるい不吉な形だった。すこしばかりこんもりと盛り上った土塊《どかい》や、水の一滴もない凹《くぼ》み、それから黒くくすんでいる飛石らしいのが向うへ続いて、賑《にぎや》かに崩れた煉瓦塀のところまで達している。どうやら此処は、誰かの邸宅の庭園だったところらしい。
 杜は怪
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