を真赤にして、先生のいうとおりになっていた。
「ああ、――」
 少女の身体がフワリと浮きあがったかと思うと、やっと三寸ほどもしも[#「しも」に傍点]手の方へ動いた。
 杜先生は少女の頭の下から腕をぬくと、その頭を静かに棺の中に入れてやった。彼女は鐚《わるび》れた様子もなく、ジッと眼をつぶっていた。花びらが落ちたような小さなふっくらとした朱唇《しゅしん》が、ビクビクと痙攣《けいれん》した。杜はあたりに憚《はばか》るような深い溜息を洩らして、腰をあげることを忘れていた。しかし彼の眼が少女の緑茶色の袴の裾からはみだした白足袋をはいた透きとおるような柔かい形のいい脚に落ちたとき慌てて少女の袴の裾をソッと下に引張ってやった。そのとき彼は自分の手が明かにブルブルと慄《ふる》えているのに気がついた。
 女生徒の或る者が主役の前田マサ子の横腹をドーンと肘《ひじ》でついた。前田はクルリとその友達の方に向き直ると、いたずら小僧のように片っ方の目をパチパチとした。それはすぐ杜の目にとまった。――彼は棺の上に急いで黒い布を掛けると一同の方に手をあげ、
「さあ、ほかの人はみな、議事堂の前に並んでみて下さい」
 
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