射線計数管と――妙なのが靴の中に収《しま》ってある?)と、帆村は首をひねった。田鍋課長には、そんなことは分らないので、どうしてあんなものを靴の中に入れてあるのか、あれでは足が入るまいなどと、そんなことばかりを心配していた。
 小山嬢は、靴を手にぶら下げた。そして指をしきりに動かして、計数管と無電装置との間に連絡のあることを示したのち、靴をいじっていたが、靴のフックのところに突然赤い豆電球がついた。
 すると、殆んど同時に、靴の底から熊手《くまで》のようなものがとび出して、下に向って開いた。その恰好は、がんじきをつけた雪靴にどこか似ていた。その熊手|様《よう》のものは、蟹《かに》のように爪をひろげ、びくびく慄《ふる》えていたが、そのうちにその爪がだんだん内側へ曲って来て、遂《つい》には靴の下で何物かをがっちりと抱きしめたような恰好となった。
 小山嬢は、そうなった靴をしきりにさしあげて、美貌の青年の注意を喚起《かんき》している風に見えた。すると青年は感激の面持《おももち》で、つと小山嬢の方に寄ると、靴もろとも両手でぐっと抱きしめた。青年の腕の下にある小山嬢の顔が、急に蒼《あお》くなり、それからこんどは赤くなった。彼女のしっかり閉じられた瞼《まぶた》の下に大きな眼玉がごろんと動くのが見えた。彼女は恍惚境《こうこつきょう》に入っているらしい。
 青年が腕を解《と》いて小山嬢を離すと、彼女は靴を持ったまま傍の椅子の上へ、へたへたと崩《くず》れるように腰をおとし、しばらくは動こうともせず、口もきかなかった。
(無電装置と放射線計数管と浚渫機《しゅんせつき》とを備えている靴――とは、妙な靴があったものだ。一体この三題噺《さんだいばなし》みたいなものをどう解くべきであろうか)
 帆村は、小山嬢がまだ持続する恍惚境から醒《さ》めやらぬのを見やりながら、心のなかにメモをとった。
 そのうちに小山嬢は、やっと正気に戻ったと見え、靴を抱《かか》えて椅子から立上った。
 彼女はその靴の紐《ひも》を、博士のズボンの下端《かたん》にまきつけて縛《しば》った。ズボンが靴をはいたように見える。
 それがすむと、小山嬢は、飾椅子に結《ゆわ》きつけてあった綱をほどき、宙に首吊《くびつ》りを演じている博士の身体を下におろし、前のとおり肘懸《ひじかけ》椅子に腰を掛けさせた。博士の死体は、綱を首にまきつけた
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