みもん》の大事件に発展するのではなかろうか。これは永年探偵等をつとめて来た帆村の第六感であった。
それから第三に、お化け鞄と、赤見沢博士が電車の中で後生大事に抱えていた鞄――その中には杉の角材四本などが入っていた方の鞄――この両者の関係が、まだはっきりしないのであるが、これもなかなか重大問題だと思う。なぜなればこの問題には、赤見沢博士の遭難事件が関係している。つまり赤見沢博士が怪漢《かいかん》のために襲撃されたのは、お化け鞄を持っていたことによるらしく思われる節がある。博士はお化け鞄を怪漢のために奪われたのではあるまいか。そしてその代りとして、只の鞄が博士の昏睡体《こんすいたい》の横に置かれてあり、共に目白署に収容されたのではないか。
帆村は、この二つの鞄を区別して考えていた。係官の中には、両者を同一の鞄とし、それが時には普通の鞄であり、また時には化けるのだと考えているようであったが、帆村はこの二つが別物《べつもの》だとしていた。それを区別するのに最もはっきりしている点は、赤見沢博士の昏倒《こんとう》している傍《そば》にあった鞄には、ちゃんと鍵がかかるようになっていたのに対し、かのお化け鞄を手にしたことのある人々の話によると、そのお化け鞄には鍵がかからない、つまり錠前がついていない。それともう一つは、お化け鞄には特別に立派な把柄がついているとのことであった。
もし出来るなら、この二つの鞄を並べてみればよく分るのであるが、今はそんなことが出来ない。お化け鞄は相変らず神出鬼没《しんしゅつきぼつ》だし、目賀野たちが出頭して引取っていった只の鞄の方は、目賀野たちと共に目下行方不明とある。
もう一つ、帆村が特に重大視《じゅうだいし》していることがあった。それは案外誰も大して気にかけていないことであったが、例の「赤革トランク紛失」の新聞広告のことであった。
あの三行広告は、同じ日の同じ新聞の広告欄に、同じような文句でもって、二つの広告が並んでいた。「拾得届出者に相当[#「相当」に白丸傍点]謝礼」と書いてある「姓名在社三二五[#「三二五」に白丸傍点]番」と、もう一つは「拾得届出者に莫大[#「莫大」に白丸傍点]謝礼」と書いてある「姓名在社三二六[#「三二六」に白丸傍点]番」との二つだった。
一体これは何者が出した広告なのであろうか。帆村が調べたところでは、前者は「葛飾《
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