よ、痔《じ》が悪いんでしょ。それでラジウムで灼《や》いているんですわ。判るでしょう。つまり肛門《こうもん》にラジウムを差し込んであるんだから、ご不浄へは行っちゃいけないのよ」
「治療中だからなのねェ」
「それもそうだけれどサ、もし用を足している間に、下に落ちてしまうと、あのラジウムは小さいから、どこへ行ったか解らなくなる虞《おそ》れがあるでしょう」
「そうね。ラジウムて随分《ずいぶん》高価《たか》いんでしょ」
「ええ。婦長さんが云ってたわ。あの鉛筆の芯《しん》ほどの太さで僅《わず》か一センチほどの長さなのが、時価五六万円もするですって。ああ大変、あれが無くなっちゃ大変だわ。あたし、ご不浄へ行って探してみるわ。だけどもし万一見付からなかったら、あたし、どうしたらいいでしょうネ」
「そんなことよか、早く行って探していらっしゃいよ」
「そうね。ああ、大変!」
林檎のように顔色の良かった看護婦も、俄《にわ》かに青森産《あおもりさん》のそれのように蒼味《あおみ》を加えて、アタフタと室外へ出ていった。
だが彼女は、出ていったと思ったら、五分間と経たないうちに、もう引返して来た。引返して来たとい
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