胆《きも》だめしは地獄の一丁目の骸骨館探検!
この発表が少年たちをよろこばせたことといったら、たいへんなものだ。少年たちだけではない、少女たちまでが参加申込みをしてくるのだった。こわいけれど、どんな骸骨があらわれるのか、おもしろそうだからぜひ見たいというわけであった。
このことは子供仲間に電信のように早く伝わり、ずっと遠いところの隣組《となりぐみ》の少年少女たちまでが、僕たちあたしたちも仲間に入れてよと申込んで来る始末《しまつ》だった。
そうなると、清君をはじめ骸骨館準備委員の五少年も、たいへんなはりきり方で、その準備をいそいだ。白粉《おしろい》、煤《すす》と鍋墨《なべずみ》、懐中電灯、電池などと資材は集められた。骸骨おどりのすごさを増すために鬼火《おにび》を二つ出す計画が追加された。これは細い竹のさきに針金をぶらさげ、その針金のさきに綿をつけ、これにメチルアルコールをひたし、火をつけるのだ。すると鬼火のように青い火がでる。竹をうごかすと、火はぶらんぶらんとゆれるから、鬼火らしくなる。
骸骨館から、へい外の出発場までの間に、空缶をぶら下げた縄を高くはることは、他の子供たちの手で用意された。
気のきいた子供がいて、蚊取線香《かとりせんこう》を持って来たので、これは骸骨館係へわたされた。しかし骸骨館の中は意外にも蚊がいなかった。附近に水たまりが全然ないせいであろう。
ようやく日が暮れた。が、西の空に三日月が淡《あわ》い光を投げていた。
胆だめし当番の順序がきまった。
第一番は正太君であった。
がらんがらんがらん。これが三度鳴った。骸骨館の用意はできあがったという知らせであった。
「よし、では僕が一番に探検してくるぞ」
「することを忘れちゃだめだよ。中へ入ったら鉦《かね》を叩いて、ううっと呻《うな》って、それから縄をひっぱってさ、それから壁に名前をかいてくるんだ。さあ、この白墨を持っていきな」
「ああ、わかったよ。では諸君、さよなら」
「なにか遺言《ゆいごん》はない?」
「遺言?」
「だって正大君。君は骸骨を見たとたんにびっくりして死んじまうかもしれないからね。何か遺言していったらどうだ」
「ばかをいってら。誰がそんなことで死ぬもんか。僕の方が骸骨を俘虜《ふりょ》にしてお土産《みやげ》に持って来てやるよ」
勇ましいことばを残して正太君はへいの破れ目を越えて構内へ入った。南瓜畑《かぼちやばたけ》の中を腰のあたりまでかくしてかさかさと音をさせながら前進して行く。廃屋《はいおく》の一つを越え、さらにもう一つの廃屋を通りすぎる。だんだんさびしさが増し、神経がいやにとんがる。もう一つの廃工場のわきをぬける。いよいよ骸骨館が目の前にあった。うすい月光をあびて、アルコール漬けの臓器《ぞうき》のように灰色だ。
まん中のくぐり戸のところだけが、魔物《まもの》が口をあいているようにまっ黒だ。正太はあそこから中へ入らなければならないのだと思ったら、とたんにこわくなって引返そうかと思った。
だが、そんなことをしては、みんなからいつまでもけいべつされるばかりだから、そこで力をへそのあたりへうんと入れ、死んだつもりになってくぐり戸へ近づいた。「地獄の一丁目入口」と書いてある入口をついにくぐって骸骨館の中へ……。ぷうんとかびくさい。中は月光が乱反射《らんはんしゃ》で入って来ているところだけがうすぼんやりと明かるいが、他は洞窟《どうくつ》のようにまっ黒で、何も見えない。骸骨も見えないのだ。
正太の手はすぐ鉦《かね》の在所《ありか》を見つけた。骸骨のあらわれないうちに鉦をさっさと鳴らして、ここを出ていってしまおうと思った。
かんかん。かかーン。
鉦をうつ手がふるえて、うまく鳴らなかった。
「あっ!」
それがきっかけのように、正面にありありと二つの骸骨があらわれた。と、おどろおどろと青い鬼火が横あいからおどり出した。骸骨が手をのばした。正太の方を指さした。それから手をぐっと上へのばした。
「ううッ」
正太はがたがたふるえながら、夢中で上からさがっている縄をひいた。遠くでがらんがらんと気味のわるい音がひびくのが分った。
骸骨同士が手をつないでおどりだした。もうたくさんだ! 正太はうしろの壁へ、白墨で自分の名前をかきなぐると、脱兎《だっと》のようにくぐり戸の外へとび出した。
わっはっはっ。骸骨の笑い声が、逃げて行く正太君を追いかけた。
意外《いがい》な飛入《とびいり》
骸骨館の胆だめし大会は、大成功であった。子供たちは、こわいこわいとさわぎながらも大よろこびで、来る夜来る夜同じ遊びをくりかえした。
探検隊員の話では、鬼火が一番こわいという評判であった。骸骨が口をあーンとあくところがこわいというものもあったが、たいてい
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