四番目の廃工場は、それらとはちがって機械類は見えず、中の土間全体が広々としていた。もっともその土間には、少年の背がかくれるほどの丈《たけ》の長い雑草《ざっそう》がおいしげっていて、荒涼《こうりょう》たる光景を呈《てい》していた。
「ここならいいね。この草をすっかり刈っちまうんだよ。そうすれば、ここをホームにしてあっちへ向いてやれば、ベースボールができるよ」
 ブウちゃんは土木技師《どぼくぎし》のように、グラウンドの設計をのべた。
 このときみんなの中で一番年上の清君と一郎君とが話をはじめた。
「ねえ、あれをしようよ、一郎君。あれをするにはおあつらえ向きの場所だよ。ちゃんと舞台もあるしね、ほら、あそこを“地獄《じごく》の一丁目”にするんだ。すごいぜ、きっと……」
「ああ、そういえばいい場所だねえ。舞台の前にはこんなに雑草が生えていて、ほんとうに“地獄の一丁目”らしいじゃないか」
「ね、いいだろう。さっそく準備にとりかかろうや。みんな手わけをして作れば、今夜の間に合うよ。そして胆《きも》だめしの当番は、あそこのくぐり戸からこっちへ入るんだよ。そして鉦《かね》をかんかんと叩《たた》かせ、それから“ううッ”て呻《うな》らせ、それがすんだら最後に縄《なわ》をひっぱらせるんだ。その縄は、みんなの集まっている工場のへいの外のところまでつづけておいて、その縄には缶詰の空缶《あきかん》を二つずつつけたものを、たくさんぶらさげておくんだよ。縄をひっぱれば、がらんがらんと鳴るから、ははあ当番の奴はたしかにこの工場の中へ入ったなと、みんなの集まっているところへ知れるわけさ。そうすれば、ずるして途中で引返した奴はすぐ分っちまうからいいじゃないか」
「じゃあ、その縄はうんと高く張らなくちゃあね。それから、くぐり戸を入ったすぐの壁に、自分の名前を白墨《はくぼく》で書かせようや」
「それもいいなあ。それから地獄の一丁目の舞台だが、何を出す。幽霊かい。南瓜《かぼちゃ》のお化《ば》けかい。それとも骸骨《がいこつ》かい」
「うん、骸骨がいいや。清君、僕おもしろいことを発見したんだよ。骸骨をほんとうに本物のようにおどらせることさ」
「えっ、何だって。骸骨を本物のようにおどらせるって、どういうこと?」
「つまり、骸骨がほんとうに生きているようにおどるのさ。骸骨が生きているわけはないけれど、そんなように見せるのさ」
「骸骨をこしらえて、それをぶら下げて動かすのかい」
「そうじゃないんだよ、僕たちのからだを骸骨にこしらえるんだ。それにはね、まずはじめに白粉《おしろい》で骸骨の骨の白いところをかいてしまうんだ。上は顔から、下は足までね。それから残ったところを鍋墨《なべずみ》か煤《すす》かでもって、まっくろに塗っちまうのさ。そうすると僕たちが骸骨に見えるじゃないか、前から見ればね」
「はだかになって、その上に白粉や鍋墨を塗るんだね」
「そうさ。そうしてね。あそこを舞台にして、その前でおどるのさ。舞台のうしろの壁は、まっくろにペンキが塗ってあるからね、あの前でおどれば、僕たちのからだの鍋墨のついている部分は黒い壁といっしょにとけあって、見分けがつかなくなる。だから白粉をぬってある骸骨のところだけが見えるから、いよいよ本物の骸骨に見えるんだよ。それは、すごいよ。はじめは骸骨はじっと立っていて動かないのさ。胆だめしの当番が鉦《かね》をたたいたら、それをきっかけに、骸骨は急に動きだすんだよ。すると当番はびっくりするよ。うわあと泣きだしたり、縄をひっぱることも、壁に名前を書くことも忘れて、一目散に逃げだすかもしれないよ。おもしろいよ」
「うん、それはおもしろそうだ。僕は骸骨になろうっと」
「僕も骸骨になるよ。骸骨は二人出すことにしよう」
「いやン、僕も骸骨にしてよ」
 そばでさっきから聞き耳をたてていたブウちゃんがわりこんでいった。
「僕も、僕も……」
「いや、僕も骸骨だ」
 良ちゃんも鉄ちゃんも骸骨|志願《しがん》だ。
「骸骨が五人もいちゃ多すぎるね。じゃあこうしよう。この五人が代《かわ》りあって骸骨になって舞台へ出ればいいや。そのほかに、まだすることがあるんだ。たとえば骸骨を見せるために懐中電灯《かいちゅうでんとう》をつけて照らす照明係《しょうめいがかり》が右と左と二人必要なんだ。それから、シロホンをひっかいてかりかりかりと音を出す擬音《ぎおん》係もいるんだ。この音は骸骨の骨が鳴る音をきかせるんだ。これでちょうど人員は五人いるんだよ」
 こうして胆だめしの遊びがはじまることになった。その廃工場を骸骨館《がいこつかん》と名づけ、胆だめしの当番はへい外から入ってひとりでその骸骨館へ入り、地獄の一丁目を探検して来なければならないことにきまった。


   探検《たんけん》はじまる


 
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