ばし》から海へ飛び込んだ男は、フン大尉というんだろう。フクシ大尉にフン大尉、どこか、似ているじゃないか」
仏天青は、前に自分の心に誓ったことなどはもう忘れて、アンの顔色を、鋭い眼で見つめた。
アンは、ちょっと周章《あわ》てているようであった。
「あれはフン大尉という人なんですか。知らなかったわ。フン大尉とフクシ大尉、名前の頭と、そして大尉とは似ているけれど、全く別人じゃない? 第一、フクシ大尉は日本将校だし、フン大尉というのは、白人なんでしょう」
「フクシ大尉は日本人で、フン大尉は白人か。なるほど、そいつは大きな違いだ」
そんなことを言っているときに、列車は、ストークの駅についた。
アンは、お腹がすいたから、サンドウィッチがたべたいといった。それからレモン水《すい》も欲しいし、序《ついで》にチョコレートと南京豆《なんきんまめ》とを買ってちょうだいなと、彼に金を渡した。
仏は、その金を握って、プラットホームに下りた。そしてアンにいわれた品物を、買い集めているうちに、列車は、ぽーっと鳴って動きだした。彼はもちっとで、ホームに置《お》き去《ざ》りにされるところだったが、いそいで駈け
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