千で、問題の高度ですね」
 山岸中尉は落ちついた声でそういう。彼の目は、テレビジョンの上にある、楕円型のノクトビジョンの受影幕に注意力をむけている。何か異変が見つかったら、すぐさま処置をとらないと、竜造寺兵曹長の二の舞を演ずることになるおそれがある。
 その処置とは、どんなことをするのか。出発前、望月大尉と打合わせてきたところでは、異変が起りかけたら、敵の姿が見えようと見えまいと、間髪《かんぱつ》をいれず、機銃で猛射をすることにしてあった。機銃弾の威力は、きっと何かの形で、手ごたえを見せてくれるにちがいないと考えたのである。
 高度はついに二万八千メートルに達した。だが異変は起らない。ノクトビジョンを左右へ振って、前方を注意しているが、なにも見えない。見えるは空ばかり。空が見えているというだけのことで、もうここらには雲片《くもぎれ》一つあるわけではなし、すこぶるたよりない。
 高度を二万九千まであげてみたが、異変はさらに起らない。
 そこで望月大尉は、
「高度二万八千に戻り、水平飛行で偵察を継続するぞ」
 と、山岸中尉に知らせた。
「了解」
 それはかしこいやり方である。竜造寺兵曹長の
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