戻ル。気温ハ上昇シツツアリ、タダイマ外部ノ気圧計急ニ上昇ヲハジメ、早クモ五百五……”
五百五というところで、文句は切れていた。
帆村はふしぎそうな顔で、山岸中尉を見て、
「この続きはどうしたのですか」
「その続きはないのです。無電はそこで切れてしまったのです」
「ははあ、そうですか」
「どう感じました。ふしぎな報告文でしょう」
「ええ、まったくふしぎですね」
帆村は、竜造寺兵曹長の無電を、もう一度読みかえしてみた。それからまた一度、もう一度と、四五へん読みかえした。読めば読むほどふしぎだらけである。山岸中尉は、帆村が何か考えこんでいるのを見てとって、そのじゃまをしないように、心痛をしのんで黙っている。
「……速度計ハ零ヲ指シ、舵器マタキカズ、ソレニ続キ高度計ノ指針ハ急ニ自然ニ下リテ、ホトンド零ニ戻ル……まるで地上と同じような状態だなあ」
と、帆村はひとりごとをいい、また次を読みつづける。
「……気温ハ上昇シツツアリ、タダイマ外部ノ気圧……五百五、……気圧五百五十ミリ程度というと高度三千メートルに近い気圧だ。三万メートルに近い気圧なら、せいぜい十ミリというところだが、それが約五百
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