、机の上に菓子の袋と、土瓶《どびん》と、湯呑茶碗とを置いた。
「もう用はない。寝てくれ」
 中尉は従兵へ、やさしい瞳《ひとみ》を送る。
 従兵が出ていくと、この部屋には山岸中尉と帆村の二人きりとなった。
「いったいどうしたのですか」
 と、帆村がもう一度同じことをいった。
「やあ、まったく困ってしまったんです。本日午前七時、竜造寺兵曹長は、成層圏機に乗ってここを出発しました。命令によると、兵曹長は高度二万五千メートルまで上昇することになっていました。なお余裕があれば三万メートルまでいってもよいことになっていました……」
 成層圏のいちばん低いところは一万メートルである。それから上へ約四万五千メートル、つまり高さ五万五千メートルまでが成層圏とよばれるのだ。竜造寺兵曹長のめざしていったのはちょうどこの半分くらいの高さだった。
「飛行の間、地上とは定時連絡をしていました。私は地上の指揮をしていましたから、兵曹長からの無電はみんな聞いていました。午前十一時に、ついに二万五千メートルに達し、それから三万メートルをめざして、再び上昇をしていったのですが、飛行機の調子は非常によいといって喜んでいまし
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