うしたのであろうか。暗闇の街路を向かって駆けて行く帆村の頭の中を、例の緑色の怪物の幻影が、電光のように閃《ひらめ》いて消えた。

   切れた無電報告

 帆村は自動車を操縦して、深夜の街道を全速力で走った。
 航空隊についたときは、もう翌日の午前一時になっていた。門をくぐって、衛兵に来意をつげると、衛兵は山岸中尉から連絡されていると見え、すぐ案内してくれた。
「やあ、よく来てくれましたね」
 山岸中尉は、いつもとはちがい、すこし青ざめた顔によろこびの色をうかべて、帆村を迎えた。中尉は、さっきから竜造寺兵曹長の行方不明事件で、心をいためていたらしい。
「いったいどうしたのですか」
「いや、まあ、部屋で話しましょう」
 山岸中尉は廊下を先に立って案内し、隊付《たいつき》という名札のかかっている自室へ、帆村をみちびき入れた。
 部屋の中は広くないが、寝台が一つ置いてあり、机が一つ、衣服箱が一つ、壁には軍刀がかかっていた。あとは椅子が三つ四つあるばかりで、すこぶる簡素で気持がよかった。
 扉をたたく者があった。「おい」と、中尉が返事をすると、従兵がはいって来た。帆村にていねいに礼をしたうえで
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