にをしているのだろうと、ふしぎに思いながら近づいて行くと、急に足が前に進まなくなった。
「あれえ、どうしたことじゃろ」
「前へ体が進まんがのう」
「わしもそうだよ。狐が化かしとるんじゃろか。早う眉毛《まゆげ》につばをつけてみよ」
 こんどは三人の娘がさわぎだした。
 こうして五人の者は、道の真中に一列に並んだまま、一歩も前へ進まず、うろたえていた。それは奇妙な光景だった。知らない人が見れば、たしかにこの五人の家族は、狐に化かされているとしか見えなかった。しかし狐が化かすなどという、ばかばかしいことがあるものではない。
 ちょうどこの時、列車を下りて、駅から出て来た人たちが五六人、喜作の一家とは反対の方向から、なにも知らず、この村道を歩いて行った。
 一番前を歩いていた農業会の田中さんという中年の人が、喜作たちのふしぎな挙動に気がついた。一町ほど向こうであるが、道はまっ直《すぐ》であるので、よく見える。
「あれ。喜作どんたちは何をしとるのかい。教練をば、しとるのじゃろか」
 一列横隊で五人が足踏みをしている有様は、なるほど教練をしているように見られないこともなかった。
 が、その田中さん
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