まった。
「あれえ、これはどうしたんだろう」
喜作の家内のお浜《はま》は、二三歩うしろにいたが、喜作の声におどろいて駆けつけた。喜作は、顔をまっ赤にして、よたよた足踏みをしている。お浜は、喜作が中風《ちゅうぶう》になって、これから前にたおれるところだと思った。
「どうしたんだね、お前さん。しっかりおしよ」と、お浜は胸がわくわく、目がくらみそうなのをこらえて、亭主の前にまわった。いや、前にまわろうとしたのだ。
「あ、いたいっ」
お浜は急に体を引いた。誰かに前からつきとばされたように感じたからだ。だが、お浜の前には、誰もいなかった。喜作が自分をつきとばしたのだろうかと思ったが、そうでもないらしい。喜作はあいかわらず、すこし前のめりになって、よたよたと足踏みをつづけている。お浜は狐に化かされたような気がした。そこでお浜は、もう一度喜作の前へまわろうとした。
「あれっ、まただよ」
お浜は、前からつきとばされたように感じた。しかしいくら目をこすってみても、自分をつきとばした者の姿は見えない。お浜は、自分で気が変になったのだと思った。そのうちに、三人の娘が追いついた。お父さんとお母さんは、な
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