であろうか。そして、どうしたのであろうか。
 失望したのは特別刑事調査隊の七人組の博士たちや若い助手達だけではなかった。集ってきた鉱山の社員や村の人々も、皆失望してしまった。
「やっぱり帆村荘六が言った注意を守っていた方がよかったね。そうすれば、あの怪物は逃げられなかったんだ」
「たしかに、そうだと思う。惜しいことをしたな。しかしあの怪物は、死んだふりをしていたのだろうか」
「そこがわからないのだ。解剖台の上から飛び出す前には、心臓は動いているような音が聞えたそうだが、怪物の身体は、やはり氷のように冷えていたそうだよ」
「それはへんだねえ。生きかえったものなら、体温が上って温《あたたか》くなるはずだ」
「そこが妖怪変化《ようかいへんげ》だ。あとで我々に祟《たた》りをしなければいいが」
 と、鉱山事務所の人々がかたまって噂《うわさ》をしていると、後から別の声がした。
「いや、あれは妖怪変化の類《たぐい》ではない。たしかに生ある者だ」
 この声に、皆はびっくりして、後をふりむいた。するとそこには帆村荘六が立っていた。
「ああ帆村君か。君は今まで何をしていた……。しかし君の注意はあたっていた
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