見えなくなった。ふしぎだなあ」
「ええっ、ほんとうか。どこだい」
児玉法学士の指さす方に、たしかに裸岩が一つあった。しかし怪物の姿は見えなかった。後からかけつけた連中は、児玉がほんとうに岩の上に怪物の姿を見たのかどうかを疑って、質問の矢をあびせかけた。
これにたいして児玉は、すこし腹を立てているらしく、頬をふくらませて答えた。
「……怪物めは、あの岩の上に、立ち上ったのだ。さっき解剖台の上で立ち上ったのと同じだ。それから身体を軸としてぐるぐる廻《まわ》りだした。すると怪物の身体がふわっと宙に浮いて、足が岩の上を放れた。竹蜻蛉《たけとんぼ》のようにね。とたんに怪物の姿は見えなくなったのだ。それで僕のいうことはおしまいだ」
「へえっ、ほんとうなら、ふしぎという外はない」
「君たちは、僕のいうことを信用しないのかね」
「いや、そういうわけじゃないが、とにかく君だけしか見ていないのでね」
緑色の怪物を最後に見た者は、この児玉法学士だけであった。それ以後には、誰も見た者がなかった。そして緑色の怪物にたいする手がかりは、これでまったく終りとなった。
いったいあの怪物はどこへ行ってしまったの
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