をおさえつけていた助手の一人が、
「あっ」と叫ぶと、
「先生、この死骸は生きているのじゃないでしょうか。心臓の鼓動らしいものを感じます」と、早口でいった。
「ばかなことをいうな。私は何度も聴診したが、心臓の鼓動なんて一度も聞えなかった。それに、ほら、こんなに冷《ひ》え切っている……」
と、甲斐博士は、怪物の死骸に手をふれて助手を叱りつけようとしたが、そのとき博士の顔色は、なぜかさっと変って、紙のように白くなった。
消え行く怪物
甲斐博士が、恐しそうに身を後に引くのと、怪物の死骸がぴょんと跳《は》ね上がるのとが同時であった。
「あっ」
解剖に立会っていた者で、青くならない者はなかった。
怪物の死骸――いや、死んだものとばかり思っていた、その怪物の身体は、解剖台の上に突立った。あまりのすごさに、人々は思わず下にひれ伏した。
と、怪物の身体は、台の上で独楽《こま》のようにきりきりと舞いだした。それが見るまに台から上にとびあがったと思うと、天幕《テント》を頭でつきあげた。ばりばりぷつんと、天幕の紐《ひも》が切れる音が聞えた。すると天幕がばさりと下に崩れ落ち、次にその天幕は地
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