なんという金属で、どんな性質を持ったものか、すこしも知らない。とにかくこんな金属は、今まで地球上になかったことはたしかだ。しかし少くとも、地球上で一番重いウランよりも、もっともっと重い元素でできていることはわかる。いま、滝田君が火傷したのも、この元素の持っている、恐るべき放射能によるものと思われる」
帆村はそう言って、ほっと一息ついた。
「すると、さっき所長が、機械人体と名をおつけになったこれは、ミミ族の体の一部分なんですか、それとも別物なんですか」
「それはミミ族――すなわち赤色金属藻の着ている外套みたいなものさ。言いかえると、それは機関車みたいなもので、それを動かしているのが、この赤色金属藻のミミ族さ。とにかく彼らは、地球へ遠征するのだから、地球人類と会見するときもあろうと予期し、そのとき地球人類と同じような形をしていた方が都合がよいと考え、そのような外套を着こんでやってきたのだ」
帆村は明快に怪鬼の正体をといた。
網の目のように、体内をはいまわっていた細い電線のようなものは、赤色金属藻から、緑鬼の手、足、目、耳、口などへ号令をつたえ、それを動かすための神経線であることも明らかになった。観察すればするほど、恐るべきミミ族の正体であった。所員一同は、つぎつぎに発見されるミミ族の驚異に、ひじょうな疲労をおぼえた。
大団円《だいだんえん》
帆村荘六のミミ族研究は、ある程度の成功をおさめた。ミミ族の正体は、まず大体のことがわかった。またミミ族が、空気の中での戦闘に得意でないこと、ことに宇宙線からエネルギーを吸って生きている関係上、地底だとか、宇宙線遮蔽檻のように、宇宙線に乏しいところではすっかり元気がなくなってしまうこと、また音響砲のような、超音波を加えられると震動がとまって墜落し、そして地球人類に見えるようになることなどの弱点がわかった。しかしミミ族が、一体どこの天空からやってきたものか、それはわからなかった。またあの赤色金属藻の実質が、どういう性質のものであるかもわからなかった。
その間に、左倉少佐のひきいる第一宇宙戦隊は、活発な行動をとりはじめた。この戦隊は、噴射艇五百隻でもって、約二百万|哩《マイル》を航続する力を持っていた。その上、帆村の研究により、ミミ族を制圧するにたるだけの音響砲や、サイクロ砲や、その他珍しい最新鋭兵器をたくさん積んでいたから、ひじょうに強力な宇宙部隊だった。
司令左倉少佐は、宇宙戦隊の準備が完了すると、ミミ族にたいして強硬な申し入れを行った。それは二つの事項からなっていた。第一に、望月大尉以下を、第一彗星号とともに、安全にこっちへもどすこと。第二に、ミミ族はわが太陽系の空間以外のところへ引きあげることであった。もしこのことが、五日以内に行われないときは、わが宇宙戦隊はミミ族にたいして、自由行動をとるであろうと申しそえた。これはミミ族にたいする最後通牒であった。もし彼らがこれを聴き入れるつもりがなければ、当然宇宙戦争がはじまるわけだった。
ミミ族からは、申しこみを受けとったことだけを回答してきた。返事をいつよこすか、それは言ってこなかった。無気味なにらみあいの時間が流れていった。左倉少佐は、宇宙戦隊をひきいて、天空にうるさいほど浮揚している、およそ百箇に近い「魔の空間」の間を、ゆうゆうとぬって廻り、敵にたいして無言の圧力を加えた。
ミミ族の間には、かなり狼狽《ろうばい》の色があらわれた。地球人類には見えないはずの「魔の空間」に衝突もせず、宇宙戦隊がゆうゆうと天空を飛び廻るので、地球人類が早くも新しい光学兵器を作ったことを察し、地球人類の智力もばかにならないことをさとったらしいのである。そのためか、三日目あたりから、「魔の空間」は次第に数を減じていった。ミミ族は後退をはじめたらしい。
こうして期限の五日目になったが、その朝になってみると、地上から見ることのできる「魔の空間」は、ただの一箇となった。それは静かに降下しつつあった。よく見ているとその「魔の空間」の下に、小さな旗がぶら下つているのが見えた。それはまぎれもなく日章旗であった。
この「魔の空間」は、やがて着陸した。その中からでてきた者を見ると、望月大尉に、児玉法学士、それに川上少年であった。三名は無事帰還したのだ。ミミ族は左倉少佐の申し入れを全部聞き入れたことがわかった。
こうしてこの怪事件も、ついに結末をつげた。宇宙戦隊の威力と、帆村荘六のすぐれた研究とが、せっかく来襲したミミ族を、その目的の百分の一も達せさせないうちに、見事に追い払ったわけである。その功は大きい。
だが帆村は、すこしもその功を誇らなかったし、やれやれと安心の色も示していなかった。彼はこう言うのであった。
「まあ、こんなわけで、ミミ族は弱点をおさ
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