には聞えない超音波です。これを『魔の空間』にあびせると、『魔の空間』を震動させている機関に異状がおこり、そして『魔の空間』は墜落するのではないかと思うのです」
「なるほど、それは面白い考えだ」
「とにかく私の、いま持っている狙《ねら》いは、『魔の空間』を撃墜するためには、『魔の空間』の原動力になっている、強くて周波数の高い震動を、なんとかして邪魔して停止させることと、もう一つは、ミミ族の生活力は宇宙線であるから、ミミ族を捕らえて、宇宙線の供給をだんだん少くしてゆくと、ミミ族はおとなしくなるだろうということと、この二つです。いかがですか」
 帆村は、二人の顔を見くらべる。
「ミミ族のことは君にまかせるよ。われわれは戦闘を引き受ける。なあ、帆村君」
 少佐はそういって微笑した。
「班長の信頼は大きい。帆村君、しっかり頼むよ」
「山岸中尉。少しは私の考えを批評してください」
「われわれには、よくわからないのだ。正直に言えばね。が、とにかく面白い狙いだと思う。それでやり抜くことにしたがいいなあ」
「そういってくだされば、大いにはげみがつきます」
 帆村は、はじめて笑顔《わらいがお》になった。
 話はそれからいろいろとのびていったが、左倉少佐からも、帆村へ報告すべきことがあった。それは、いまも「魔の空間」にとどまっていると思われる、彗星一号艇の望月大尉たちにたいして、地上から、連日しきりに連絡をとっているが、まだ一度も連絡に成功しないこと、しかしミミ族は、こっちからの無電を聞いているらしく、時々奇妙な音響を聞かせること、それからもう一つの報告は、近くこの臨時研究班は解散し、それにかわって第一宇宙戦隊が編成せられ、左倉少佐が、その司令に就任することが内定しているというのであった。
「ほう、第一宇宙戦隊。いよいよ宇宙戦隊が誕生するのですね。それは結構なことだ。もちろんこれはミミ族と闘うためでしょうね」
「相手はミミ族だけではない。どんな相手であろうと、わが宇宙にけしからん野望をとげようとする者あらば、わが第一宇宙戦隊は容赦しないのだ」
 左倉少佐は決然と言いはなった。

   「魔の空間」の撃墜《げきつい》

 力強い第一宇宙戦隊の産声《うぶごえ》に、感激を新たにして、帆村荘六は、左倉少佐と山岸中尉の許《もと》を辞してもどった。こうなれば、帆村の任務もますます重大である。ぜひとも成功して、ミミ族の正体をつきとめねばならない。
 その翌日から、いよいよ帆村所長の指揮で、ミミ族狩りがはじまった。
 電子ストロボ鏡で、天空をのぞいていると、ちょうど天空から、そろそろと降下してくる回転楕円体の「魔の空間」を発見した。それは約十|粁《キロ》ばかり東へいった、山麓《さんろく》附近を目がけて下りてくるようだ。
「出動――」
 帆村は号令をかけた。所員と警備隊員とは、軍用自動車にとび乗って、街道を全速力で東へ走らせた。
 あと一粁ばかりのところで、車はとめられた。そして陣地がつくられ、車の上へ積んできた怪力線砲と、音響砲は下され、対空戦闘の用意はととのえられた。
「戦闘開始」
 と、帆村は警備隊長の竜造寺兵曹長へ命令を発した。竜造寺兵曹長は、こん度は特に志願して帆村の下につき、警備隊を指揮することとなったのだ。「魔の空間」から救いだされて以来、兵曹長は深く感激し、帆村に恩をかえしたいと思いつづけていたのだ。
「怪力線砲、撃ち方はじめ」
 兵曹長は、はじめ打ちあわせた順序により、まず怪力線砲から射撃をはじめた。目に見えないが、強い電磁波は、一直線にのびていって、天空をわが物顔に下りてくる「魔の空間」を突きさした。
「所長。怪力線は『魔の空間』に命中」
 と、兵曹長は叫ぶ。
 帆村はもちろん、電子ストロボ鏡でそれを見まもっていた。
「怪力線、射撃をつづけよ」
 と、帆村は命令して、「魔の空間」にどんな変化がおこるかと、目を皿のようにして見つめていた。が、三十秒、一分、一分三十秒とたっても、「魔の空間」は、なんの変化も示さず、あいかわらずゆっくりと下降をつづけているではないか。
(だめだ。怪力線砲は効果なしだ)
 帆村はそう思った。
「隊長、音響砲で砲撃を……」
 そういって、帆村は竜造寺兵曹長に命令した。
「音響砲、撃ち方はじめ」
 砲撃はすぐはじまったが、光も見えなければ、音もしない。音響はだすが、超音波のことだから、人間の耳には音と感じないのだ。だが、音響砲は頼もしくも、手ごたえがあった。
「あっ、『魔の空間』が落下の速度を早めたぞ。機関が故障になったのだ。ああ、墜《お》ちる墜ちる。あそこへ急げ」
 帆村は、狙った「魔の空間」が、音響砲の砲撃のため、故障になって墜落するのを見定めると、全員を急がせて、その落下の場所へ移動を命じた。あと僅か一|粁《キロ》ばか
前へ 次へ
全41ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング