らないといった面持《おももち》だ。
「敵といえば、わかっているよ。例の緑色の怪物だ。いや、ここでは緑色の衣裳《いしょう》をぬいでいるかもしれないが……。しかし、少くともわれわれのいるここへ来るときは、例の服装でいるだろう」
「ああ、あいつですか。鉱山の底で死んだふりをしていた。青いとかげの化物みたいな奴……。大きな目が二つあって、頭に角が三本生えている、あのいやらしい怪物のことですか」
「帆村班員はほんとうにそう思っているのか。いったいそれはどういうわけで……」
 と、山岸中尉も、思わず声を大きくして帆村の方へすり寄った。
「これは別にたいした予言でもありませんよ。なぜといって……」
 と、帆村は途中で言葉をとめてしまった。
「帆村さん。早く話をしてください」
「話をするよりも、実物を見た方が早いよ。それっ、窓から外を見たまえ。例の緑色の怪物どもがおしかけて来たよ。ふふふ、これは面白い」
「えっ」
 山岸少年が窓の方へ目を走らせると、たしかに帆村のいったとおりだ。向こうからこっちへ、緑色の怪物が十四五名、肩を組んだようにしてぞろぞろと歩いてくる。そしてその先頭に立って歩いている一名が、手をあげて何か叫んでいる様子だ。それは山岸たちに向かって呼びかけているように思われる。
「総員戦闘準備……」
 山岸中尉は、いよいよ来るものが来たと思って、戦うつもりだ。
「待った。機長、はじめから戦うつもりでいたんでは、こっちの不利となりますよ。しばらく成行《なりゆき》にまかせてみようじゃないですか」
「いや、捕虜《ほりょ》になるのは困る」
「捕虜ということはないですよ。あの緑人どもは、われわれ地球人類と話をしたがっているのだと思います。だから、私たちを大事にするに違いありません」
「どうかなあ」
「まあ、こんどだけは私のいうところに従ってください。そしてここをさよならするまでは、短気を出さないように頼みますよ」
「帆村班員は、よくそんなに落着いていられるなあ」
「なあに、私は大いに喜んでいるのです。緑色の怪物どもから、われわれのまだ知らない、宇宙の秘密をしゃべらせてみせますよ。とうぶん彼等を憎まず、そして恐れず、しばらくつきあってみましょう。その結果、許すべからざる無礼者だとわかったら、そのときは山岸中尉に腕をふるってもらいましょう」
「竜造寺兵曹長の、安否をはやく知りたいものだ」
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