流れるかわりに、ミミ族の体から精巧な金属製の部品が取りはずされてならべられた。だから、すこしも血なまぐさい感じがしなかった。
「じつに巧妙にできた機械人体だ」
と、帆村は所員の顔を見まわして言った。
「しかしミミ族は、単なる機械人体ではない。この機械人体を動かしているものこそ、ミミ族の正体だ。つまりミミ族の正体は、もっとこの内部にあるのだ。さあ、さらに解剖をつづけよう」
所員は、ドリルを取り上げ、酸水素高温焔器の焔《ほのお》を針のように細くし、さらにミミ族の解剖を奥へ進めた。
やがて愕《おどろ》くべきことがわかった。
「ほら、体の中は、がらん洞《どう》ですぞ」
「がらん洞。やっぱりそうか」
「がらん洞ですが、細い電線みたいなものが、網の目のように縦横に走っています」
帆村は、この発見にもとづき、別のミミ族を引きだして、これを高速鋼の回転|鋸《のこぎり》にかけて、唐竹割《からたけわり》に頭から下まで、縦に二つに割ってみた。二分された緑鬼の体は、二隻の舟のように見えた。なるほど内部はがらん洞であった。そのがらん洞の中に、細い電線のようなものが、網の目のように入りみだれて走っているが、その中心に、真赤なぺらぺらした硬い藻《も》のようなものがあった。それを切り取ると、両手ですくいあげられるほどの僅かな分量のものでしかなかった。
だがこのとき、思いがけないことが起った。それは、その真赤な硬い藻を両手ですくいあげたその所員は、急に両手をふるわせ、悶絶《もんぜつ》してしまった。
そこで研究はそっちのけで、この所員にたいし、応急手当が加えられた。幸いに彼は間もなく息をふきかえしたが、その語るところによると、両手がち切れそうな苦痛を感じたという。彼には見せなかったが、繃帯《ほうたい》で包まれた彼の両手は、大火傷《おおやけど》をしたようにはれあがり、骨はぐにゃぐにゃになっていた。真赤な硬い藻が、おそるべき力をひめていることが、こうして発見されたのである。
「そうか。やっとわかった。この赤色藻こそ、ミミ族の正体だ」帆村はそう言って、解剖台から二三歩後へ下った。
「えっ、これがミミ族の正体だというと、どういうわけですか」
「つまり、ミミ族はやっぱり金属生物なんだよ。この赤い藻のように見えるのがそれだ。だがわれわれは、この珍しい金属については、はじめてお目にかかったわけで、これが
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