った。
不覚
その夜の集合場所は、郊外Z九号の飛行場であった。シャルンスト会堂の前から入りこんでいる地下道を下っていくと、今いったZ九号飛行場に出る。もちろんこれは地下飛行場である。
僕は、ふらふらする足を踏みしめて、清潔に掃除の行届《ゆきとど》いている地下舗道を下りていった。すぐ改札口に出る。僕は、リーマン博士から渡された切符を見せる。
でかい腹を持った番人が、切符に鋏《はさみ》を入れて、僕に返しながら、
「はい、よろしい。一等前の十三号という自動車に乗って下さい」
という。
「十三号車とは、いい番号じゃないね」
「そうです。あまり使いたくない車ですが、今夜は一台足りないのでつい並べてしまったのですよ」
十三号車は、柩車《きゅうしゃ》のように黒い姿をして、最前列の左端に停っていた。おそろしく古い型の箱型自動車だった。
運転手が下りてきて、懐中電灯で切符を調べてから、扉をあけてくれた。乗ってみると、たしかにあまり使わない車らしく、ぷうんと黴《かび》くさかった。
車は走りだした。
遂に「非常な超冒険旅行」のスタートが切られたのであった。
超冒険旅行とは一体どんな旅行か。それは多分このヨーロッパを出発し、敵軍の間を縫って遂に東洋へ達する旅行なのであろうと思う。潜水艦で渡るのか、それとも飛行機で飛ぶのか、それとも小さな汽船で行くのか。
いや、そんなことは放って置いてもやがて自然に分ることだ。それよりも今夜は豪華なものだった。行き逢った同業者は必ず捉《とら》えて席を一緒にし、高く盃をあげてお互いの幸運を祈り合った。何十人だったか何百人だったか、よく覚えていないが、中でも日本人の同業者に対しては、ひとりひとりに無理やりに紙幣を押しつけてやった。みんな僕の顔を見て、気が変になったのじゃないかといっていたっけ、はははは。
「おう運転手君。車内が真暗《まっくら》じゃないか。電灯はつかないのかねえ」
今になって気がついたことだが、わが十三号車は、車内は真暗のまま走っているのだ。運転台には灯がついているが、それも非常に暗い。
「ああ、すみません。旦那の倚《よ》っ懸《かか》っているところにスイッチがありまさあ。それをちょっと右へひねってくださいな」
と、部屋の隅から声がした。高声器がつけてあるのだ。古い自動車には似合わぬ贅沢な仕掛だ。
「スイッチがあ
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