「わしのいう他の者は、火星人の如き者かもしれない。しかしわれらの研究によると、火星人ではないように思われる節がある。いずれそのことは火星へいって取調べるつもりだが、わしだけの考えでは、もっと遠方から飛来して来た者ではないかと思う。わしは今仮りにこの油断のならぬその者を、X宇宙族という名をもって呼ぶことにしよう」
「X宇宙族。なるほど、こいつは戦慄的《せんりつてき》な名前だ」
と、さっきから黙りこくっていた魚戸が、顔をあげて呟《つぶや》いた。
「しかしそれは合点がいかぬですなあ。一体わが太陽系では、生物が棲息《せいそく》しているのは、わが地球と、その外に若し可能ありとすると火星しかない。他の遊星には、生物の棲息できる条件がないということを聞いていますぜ。すると火星以外のどの遊星に、そのX宇宙族とやらいう生物が棲息しているのですかなあ」
ベラン氏は、信じられないという顔付であった。
「さあ、X宇宙族が、どこから発足した生物だか、わしは今説明する材料を持って居らない。だが、今いったことは、多分間違いないものとひそかに信じているのだ」
と、艦長リーマン博士は前言を再確認したあとで、特に言葉に力を入れて、次の如くいった。
「四十億光年の直径を持っている大宇宙に、星の数は十五億個、そして宇宙の年齢は、大体十六億年と推定される。その広大な大宇宙の中において、わが地球人類が最高の智能者だと自惚《うぬぼ》れる者があったら、その者はどうかしている。わが地球人類はわずかに今から四五十万年前に発足したものだ。われらは今、ようやくにして防衛対策に気がついたが、もしそれが遅すぎなければ、それは奇蹟中の大奇蹟という外ない」
航程検討
リーマン博士との初会合が終了した後で、僕は自分の頭が張子《はりこ》ではないかと疑った。
この世には、恐ろしく頭脳の鋭敏な人物がいるものだ。
それにしても、なんだかうまく胡魔化《ごまか》されたようなところがあるような気がして、自分の部屋へ帰ると、リーマン博士の言葉をもう一度復習してみた。だが、その結果、ますますもって博士の着眼点の凡ならざることに感服させられたのだった。
「こいつはたいへんだ」
僕は、そう叫ぶと、亢奮《こうふん》のあまりベッドの上に起きあがった。そして棚の底にしたたか頭をぶっつけた。
僕は下に降りて、無暗《むやみ》に部屋の
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