定、副団長は魚戸に決定した。われわれは拍手を以て、その成立を承認した。フランケと魚戸は、真中まで出て、軽く頭を下げた。まことに几帳面《きちょうめん》なことである。
「では早速ですが、私は団長として、皆さんにお伺《うかが》いしますが、本艇に於ける生活について希望がありましたら、お申出下さい」
フランケが丁寧な口調でいった。
「リーマン博士に一刻も早く会見する機会を作ってもらいたいですなあ」
私は早速申入れた。
「はあ、そうですか。今私がお訊《たず》ねしたのは生活のことについてでしたが、リーマン博士に一刻も早く逢う件も交渉して置きましょう」
フランケは好意に充ちた顔付で、そういった。
「われわれのための私室はあるのでしょうか」
ベランが訊いた。
「それは大丈夫です。狭いながら、ちゃんと有ります。あなたがたの場合は、間の扉を開いて二室お使いになればよろしい」
「美粧院《びしょういん》みたいなものがありまして」
「ああ美粧院ですか。たしかにございます。その外《ほか》病院もありますし、産室もございます」
産室! 僕はくすくすと笑った。するとフランケが、青い目玉をこっちへ向けてぐるぐる廻し、
「いやそれは本当です。本艇には現在二十五組の夫婦が乗っていますから、そういうものも当然用意してあります」
と、大真面目でいった。僕はそれを聞くと、ちょっと揶揄《からか》ってみたくなり、
「ほほう。すると本艇にはお産日の近い御婦人も乗っているのですね」
「そうです。目下判明しているのは二人だけです。一人は縫工員《ほうこういん》のベルガア夫人で、これは妊娠九ヶ月、もう一人は宣伝長イレネ女史で同じく四ヶ月です」
「おやおや。それはどうも……」
僕は後を振返って魚戸の顔を探した。魚戸の奴、周章《あわ》てくさって、ポケットから莨《たばこ》を出して口に啣《くわ》える。
フランケは言葉を続けて、
「なお、本艇が予定の航程を終了するまでには、相当の出産があることでしょう。三四十人、いや四五十人はあるかもしれん」
「赤ん坊が四五十人もここで生まれるって……」
僕は笑おうとして、ふと気がつき、笑うのを中止した。その代りフランケの前に進みより、
「フランケ君。君は本艇の全航程が何ヶ年ぐらいかかるか、それを知っているのかね」
「正式には知らんです。だが常識として、十五年はかかるでしょうな」
「十
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