に、その窓をのぞいてみた。
そのなかに見た刹那の光景!
ああ、これほど世の中に奇しき見世物があるであろうか。僕ははっと息をのんだまま、その場に硬直してしまった。
おそろしい生物《いきもの》よ!
その別室の床に、大の字なりに死んだようになって寝そべっていたのは、最初の一目では、一個の裸形の女と見えた。
だが、次の瞬間、僕はそれを早速訂正しなければならなかった。
(女体らしい。しかしそれは絶対に人間ではない!)
絶対に人間ではありえないのだ。
なるほど四肢は豊満に発達し、皮膚の色はぬけるほど白く、乳房はゴムまりのようにもりあがり、金髪はゆたかに肩のあたりにもつれているところは女性人間のようであるが、よく見ると顔がのっペらぼうだ。そして頭髪の間から三本の角が出ていて、その尖端にたしかに眼玉と思うようなものがついている。そいつはぐるぐるとうごめいていたが、おどろいたことに、眼瞼と思われるものがぱちぱちと眼をしばたたいたのには愕いた。こんな人間は絶対にありえない。
それから四肢だ。これをよく観察していると、腕はありながら、手首とか指などがない。その代り手首のあたりから先が、きゅうりの蔓のようにぐるぐる巻いていて、それがときどきぬーっと長く床の上にのびて、そこらをしきりにのたうちまわる。
こんな形の生物は、人間の畸型例にも見たことがない。怪物というよりほか、呼びようがないであろう。
まだもう一つ気のついたことがある。
それは真白な肢体の膚に、点々として小さい斑点がついていることだ。そういうとそばかす[#「そばかす」に傍点]みたいに聞えるが、そばかすではない。そばかすよりもずっとずっと小さい斑点で、そしていやに黒いのである。電送写真というものがあるが、あの写真を空電の多いときに受信すると、画面におびただしく小さな黒い空電斑点というものが印せられるが、どっちかというと、その空電斑点によく似ているのであった。(後で分ったことであるが、その怪物の肢体についている黒斑が、僕の第一印象のとおり、やはり本当の空電斑点であると分ったときには、さすがの僕も腰がぬけたかと思ったほど愕いた)
「あの怪物は、どうしたのですか。博士はどこからあれを持ってこられたのですか」
僕はマカオ博士の方をふりかえって、はげしく詰問の言葉をおくった。
「おうほ、そのことそのこと」
と、博士は
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