どだ。はじめはね、あのぬらぬらした触手というか触足というか、つまり人間でいえば足の方から現われてきたんだ。それまでにはなにもない空間にだよ、怪物の足が現われてきたんだ。器械がまわり、時間がたつにつれ、足の先に腰が現われ、それからその先に胴中やら、胸やら肩やら、そしてあの醜い首やらがむくむくと、まるで畳んであったゴム風船をふくらますように現われてきたではないか。自分の発明した器械であるとはいえ、またそういうことが起ることも予想していたけれど、いよいよそういうふうに実物が現われたときには、いかに気丈夫なわしでも、ぞーっと身ぶるいした」
 ものがたる博士の顔は、さすがに青ざめていた。
「博士、いったいあの怪物は、どこにいたものが、こうしてここへやってきたのでしょうか」
「多分、火星の生物だろうと思うよ。火星の生物も、いまわしがこしらえたと似たような器械をもっていて、それを使っているらしい。だから、火星において、たまたま走査《スキャンニング》をして電気になった女体を、わしの器械が吸いとってしまったわけらしい」
「おどろくべきことですね。そんなことができるとは、想像もおよばない」
 と、僕は心の底から感嘆の詞《ことば》をはなった。
 博士は、それほど得意そうに見えなかった。博士の眉毛の間にはふかい溝がきざまれていた。
「博士はこんな大発明をしながら、あまりよろこんでいらっしゃらないのは、どういうわけですか」
 と、僕はつい気になって、たずねてみた。
「ああ、君の目にも、わしの苦痛がわかるかね。そうだ、君の見るとおり、わしはまだ喜んでいないのだ。というのは、まだ分らないことがたくさんあるのだ。たとえば、いま君がみた宇宙女囚――と、かりに名づけておこう――あの宇宙女囚は、三つの眼をぴくりぴくりとうごかしている。つまりあの生物は、たしかに生きているのだ。しかし残念なことに、意識を失っている。宇宙を電気になってとんでいるところをわしの器械に吸いよせ、そしてあのように立体化してみたところが、肉体は現われたが、意識がないというのでは、研究者としてこれが悲しまずにいられるだろうか」
 博士はしんみりと述懐した。
 なるほど、あの怪物は生きてはいるが、意識がないようである。僕から見れば、博士は千古不朽の大発明をしたように思うが、当の博士としては、これではまだ研究を完成していないわけで、それで
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング