にあるアルミニュームの金だらいを電気的方法によってここへ持ってきたりするのさ。あっはっはっ、いっこう解せぬという顔つきだね。考えだけならなんでもないではないか。平面がテレビジョンや電送写真として送れるものなら、立体もまた送ったり受けたりできるわけではないか」
 僕には、博士のいうことがすこしずつわかってきた。
「しかし博士、写真などはいと簡単ですが、鉄の灰皿などとなると、これは物質ではありませんか。電気になおすたって、なおせますか」
「なあに訳のないことさ。鉄にしろアルミニュームにしろ、これをだんだん小さくしてゆくと分子になり、原子になりそれをさらに小さくわってゆくと電子とプロトンとになる。ところがプロトンとは、電子のぬけ穀のことであって、結局、この世の中には電子のほかになにものもないのさ。すべての物質は空間をいかに電子が構成しているかによって、鉄ともなりアルミニュームともなるんだ。だからすべての物質は、最後においては電荷に帰することができる。そうではないか。平面であろうと立体であろうと、走査《スキャンニング》の原理には変りはない。平面|走査《スキャンニング》ができれば立体|走査《スキャンニング》もできるわけだ。鉄の灰皿を立体|走査《スキャンニング》すれば、これはすなわち一連の電信符号とかわりないものとなる。どうだ、わかったろうが」
「ふーむ、そういう理屈ですか。いや、おそろしいことになったものだ」
 僕は長大息とともにそういった。
 平面|走査《スキャンニング》をする電送写真やテレビジョンがあれば、灰皿や金だらいを立体|走査《スキャンニング》することも案外似かよった立体|走査《スキャンニング》の原理でもって達成しえられるように思う。
 灰皿ができれば、なにも金属にかぎらない。すべての物質物体は、電子に変じて送ったり受けとったりできるわけだ。すると、隣室の床にころがっている怪奇きわまるあの生物は――?
「あれも、博士の器械で吸いよせたのですか」
 と、僕は気もちのよくないことを、博士にきいてみた。
「うむ、やっと気がついたようだね」と博士は頤髯をごそりとうごかし、「君の察したとおり、あの怪物は、実は、今月はじめて立体組成電子機をうごかしてみたところ、いきなり器械のはたらきでもって、台の上に現われてきたんだ。いや、実に愕いた。どのくらい愕いたといって、形容ができないほ
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