いってみよう」
 二人は手さぐりで艇内をはいはじめた。艇内の電燈は消えて、くらやみだが、ただ夜光塗料をぬってある計器の面や、通路の目じるしだけが、けい光色に、ぼうっと弱い光りを放っている。
「ああ、これはへんだね。呼吸が苦しくなった」
「ぼくもだ。ポコちゃん、艇がこわれて大穴があいたんだよ。そこから空気がどんどん外へもれていくんだ。弱ったね。呼吸ができなければ死んでしまう」
「じゃあ、ぼくは空気帽をぬぐんじゃなかった。ぬいだと思ったら、さっきのドカーンだ。だからどこへ空気帽がいったかわからない」
「しゃくだねえ。ここまで来ながら、呼吸ができなくて死ぬなんて……」
「ぼくがわるかった。重力平衡圏で、よけいなことをして遊んで、てまどったのがいけなかった。千ちゃん、ごめんね」
「そんなことは、あやまらなくてもいいよ。しかし月世界探険のとちゅうで死ぬなんて、ざんねんだ」
「もういいよ。死ぬ方のことは神さま仏さまへおまかせしておこう。それでぼくたちは、それまでのあいだに、できるだけ修理をやってみようじゃないか」
「だめだろう。あと五分生きているか、十分生きているか、もう長いことはないよ。あっ、く
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