ジオ・シチーの明かるい放送がはいってきた。
 二人がそれにききいっているうちに、高度はどんどんあがっていく。そして空がだんだん暗さをます。
 やがて星がきらきらかがやきはじめる。
「ポコちゃん、いつのまにかほくたちは成層圏《せいそうけん》へたっしたよ。ほら、空が暗くなってまるで夕方になったようだ」
 千ちゃんが指をてんじょうの方へむけていう。が、ポコちゃん、へんじをしない。それもそのはず、ポコちゃんは音楽をききながらいい気もちになってねむってしまったのだ。
「おやおや、のんきな坊やだなあ」
 そういっているとき、へんなこえが頭の上にした。
「もしもしカモシカ号。もしもしカモシカ号……」
 あ、下界からの超短波の無線電話のよびだしだ。
「ああ、こちらはカモシカ号です。山ノ井万造です。あなたはどなたですか」
「おお、カモシカ号ですね。ぶじですか。みんなしんぱいしていたところです。こっちは東京放送局の中継室ですが……」
「ぼくたちは元気です。しんぱいはいらんです」
「でもね、さっきから――そうです、四十分ほど前からこっちへずっとカモシカ号からのテレビジョンがとまっているのです。だからカモシカ号は空中分解でもしたんじゃないかと、しんぱいしていたわけです。だから超短波の無電でちょっとよびだしをかけたんです」
「こっちからのテレビジョンがとまっていますって。それは知らなかった。そんなはずはないんですがね。念のためにちょっとしらべますから、待っていてください」
 千ちゃんはふしぎに思って、テレビジョンの空中線回路へ監視燈《かんしとう》をつっこんでみると、燈《あかり》がつかない。なるほど電流が通っていない。やっぱりそうだったんだ。故障の箇所《かしょ》はどこだろうかと、千ちゃんは座席から立ちあがってはしごで下へおり、テレビジョン装置をしらべてみた。しかしアイコノスコープも発振器《はっしんき》もどこもわるくなさそうである。しかしテレビジョン電流はさっぱり出ないのだ。
 いよいよこれはへんである。千ちゃんはふたたびはしごをのぼって操縦席へもどってきた。このうえは、いい気持のポコちゃんをねむりからさまして、二人して故障箇所を早くさがそうと考え、となりの席で、ていねいに、おじぎをしたようなかっこうでいねむっているポコちゃんの肩へ手をかけようとしたとき、故障の原因がたちまちはっきりわかってしまった。
「なあんだ。ポコちゃんが、自分のおでこで、テレビジョンのボタン・スイッチをおして“テレビ休止《きゅうし》”にしているじゃないか。困った坊やだ。おいポコちゃん、ポコちゃん。そうしていちゃこまるじゃないか」
 と、千ちゃんはポコちゃんの肩をもって、自動式操縦ボタンのパネル(盤)からひきはなした。しかしポコちゃんは、まだ目がさめないで、座席に深くおちこんだようなかっこうで、むにゃむにゃ、ぐうぐうぐう。
 千ちゃんはあきれながら“テレビ動作”のボタンをおす。するとテレビジョンはすぐさま働きだした。
「ああ、もしもしカモシカ号。そっちから送っているテレビジョンが受かるようになりました。ありがとう、ありがとう」
 下界の放送局のこえである。
「いや、どういたしまして。ぼくの顔が見えていますか」
「ああ、よく見えます。笑いましたね、いま。あなたは山ノ井君ですね」
「そうです、山ノ井です」
「もう一人の川上一郎君は健在《けんざい》ですか」
「はあ、健在です」
「では、川上君にちょっとテレビへ出てもらって、何かしゃべってもらってくれませんか」
「はいはい。しょうちしました」
 千ちゃんはそうこたえて、テレビジョンの送影口《そうえいぐち》をポコちゃんの方へむけて大うつしにして、
「おいおい、ポコちゃん。放送局のおじさんが、君になにかしゃべれってさ」
 と、肩をゆすぶって起しにかかる。
「……うん、むにゃむにゃむにゃ……。もうおイモはたくさんだよ。ナンキンマメがいい。あ、そのナンキンマメ、まってくれ。むにゃむにゃ……」
 と、ポコちゃんは、ねごとをいう。
「はははは、これはゆかいだ」
 と、放送局のアナウンサーは笑って、
「では、もう時間がきましたから、このへんでさよならします。次の連絡時間は十時かっきりということにねがいます。エヌ・エィチ・ケー」


   飛ぶ火の玉


 ポコちゃんがしぜんに、ねむりからさめたときには、艇の外はもうまっくらであった。
「あっ、あああーッ。いい気もちでねむった。――おやおや、もう日がくれたぞ。早いものだ。さっき朝だと思ったのに……」
 そういうポコちゃんの横の席では、千ちゃんがしきりに日記をつけている。
「あ、千ちゃんがいたよ」
 と、ポコちゃんはつまらないことを感心して、
「千ちゃん、今何時だい」
「今、十時三十分だ」
「十時三十分? 午後十
前へ 次へ
全23ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング